考察『不適切にもほどがある!』9話。令和の事情に太刀打ちできない昭和
犬島渚(仲里依紗)がハラスメントで訴えられる。小川市郎(阿部サダヲ)は助けられるか?『不適切にもほどがある!』(TBS金曜夜10時~)9話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。今夜最終回!
属性に沿った発言と 行動がもたらすもの
わたしたちはふだん、世代、居住地、趣味と、あらゆる属性に所属して生きている。そのことを描いたのが『不適切にもほどがある!』9話「分類しなきゃダメですか?」だ。 「ワーママ」の代表として社内報のインタビューを受けた犬島渚(仲里依紗)。その発言がアウティングでマタハラ(マタニティ・ハラスメント)だと、部下で妊活中の杉山ひろ美(円井わん)から告発されてしまう。このインタビューで渚は「ワーママ」という属性に合った発言を求められ、それに沿って答えているし、杉山は周りから「妊活をしている人」という属性で語られてしまっている。 いっぽう、秋津(磯村勇斗)は自社のマッチングアプリにあらゆる属性を登録し、恭子(守屋麗奈)と出会う。この二人も、互いの「属性」だけの出会いだ。恋愛相手も分類されて決まっていく。ぴったりと属性があったはずのマッチングだが、ミスマッチが発覚して恭子にフラレてしまったあと、秋津は彼女に恋していたと気づく。「恋愛しなきゃダメですか?」「人を好きになったことがないんです」と自分を分類していた秋津の自己判断は誤りだったのだ。 なお、市郎は昭和ならではの価値観で「(好きになったことがないなんて)いねえよそんなヤツ」と一蹴するけれど、実際はいることを私たちは知っている。「男はつくんねえよ、こんな料理」に注意書きが出ること自体は皮肉だとしても、多くの人が「恋愛をしたことがない人」「男が繊細な料理をすること」を理解している令和は多少なりとも進歩しているのかな、と思わされる。
ひとりの人間のことが 「わかってたまるか」
渚は配慮したつもりが杉山にさらなる失言をしてしまい、1か月の謹慎処分をくだされる。コンプライアンス部長である栗田(山本耕史)らが集うヒアリングの場で、個人として杉山へのメッセージを伝えるが、拍手を送るのは市郎だけだ。 謹慎期間中、父・ゆずる(古田新太)と暮らす集合住宅で、ゴミの出し方を注意した渚は「そんなんだからパワハラで訴えられるんですよ」と言われてしまう。ここで娘をかばったゆずるが自分で救急車を呼んでおいて『コーラスライン』の「ONE」を彷彿とさせる渾身のミュージカルシーンを披露する。改めて、このドラマは父と娘の物語なのだな、と思わされた。 ここまで物語が進んできて感じるのは、このドラマが主張するのは昭和がいいとか、令和がいいとか、そんな単純な話ではないということだ。父が命を賭して娘をかばったからといって、みんなが納得して渚が救われることはない。それどころか、渚のハラスメントはSNSで拡散されてしまう。8話「失敗しちゃだめですか?」で描かれたように、「そんなつもりじゃなかった」一度の失言で、「マタハラ上司」のレッテルを貼られっぱなしになってしまい、9話が終わった時点ではリベンジの機会は与えられないままだ。昭和の「不適切」は、令和に影響を及ぼすことができない。 「属性」について描いた9話を象徴するのは、純子(河合優実)の墓参りシーン。若くして死んだ純子を悼みながら「でもここにいるみんな、純子ちゃんでつながってる」とサカエ(吉田羊)が言うと、市郎、渚、井上(三宅弘城)、ゆずるが次々に言う。 「俺の娘で」「私のお母さんで」「僕の先輩で」「私の妻ですもんね」 その1つひとつは属性だ。けれど、純子はきっとそれぞれの人と、少しずつ違う面を見せながら接していたはずだ。そのすべてが純子を構成する要素で、それさえも彼女の一部だ。 ミュージカルシーンのゆずるが理解を求めていたわけではなかったところも印象的だ。自分にとって渚がいかにいい娘かを発信しながらも「わかりましたよ」と言う相手に「わかってたまるか」と言い放つ。ひとりの人間の全貌なんて、簡単にわかるわけがないのだ。 人間は簡単に分類しないほうがいいけれど、ゴミは分類すべき、ということだけが真実だ。