「新増設か即時廃止か」衆院選で各党の原発政策こんなに違う
衆院選が2024年10月15日公示され、激しい選挙戦となっている。今回の衆院選は「政治とカネ」や物価高に対する経済政策などが主な争点だが、原発をはじめとするエネルギー政策で各党は何を訴えているのだろうか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 自民党は11年の東京電力の原発事故後、エネルギー政策をめぐっては歴代政権が「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた。前回(21年10月)の衆院選で岸田文雄首相(党総裁)も「原発依存度の低減」を堅持したが、「安全が確認された原発の再稼働」のほか、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる小型原発(次世代革新炉)の建設や核融合炉の開発などを政権公約に掲げた。 今回、自民党が発表した政権公約から「原発依存度の低減」の文言は消えた。代わって「徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用など脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と、原発推進を明確にした。 自民は「再生可能エネルギーを最大限導入し、主力電源化する」としたが、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」「核燃料サイクルを推進する」と、従来の政策を踏襲した。 さらに自民は原発について「新たな制度に基づく運転期間の延長などに取り組み、既存の原子力発電所を最大限活用する」と訴えた。次世代革新炉以外の従来型原発の建て替えや新設・増設については前回の衆院選と同様、明記しなかった。 ◇立憲と国民民主の違い これに対して、立憲民主党は「50年までのできる限り早い時期に化石燃料にも原子力発電にも依存しないカーボンニュートラル達成を目指す」と公約。「原発の新設・増設は行わず、全ての原発の速やかな停止と廃炉決定を目指す」とした。 立憲は党の綱領で「原発ゼロ」を目標に掲げているが、今回の衆院選の公約に「原発ゼロ」は盛り込まなかった。この点については、10月12日の日本記者クラブ主催の党首討論で、記者から「野田佳彦代表は実は原発ゼロの綱領に反対なのではないか」と質問が出た。 野田氏は「私自身も内閣総理大臣の時に原発ゼロを目指す、そのための政策を総動員すると言っていた。ですから、原発ゼロを目指すこと自体に反対ではない」と明言した。 その上で野田氏は「いま現実にゼロという言葉を政権公約とかで書くと、すぐにできるように思われる方もいるかもしれない。原子力エネルギーに依存しない社会を作っていって、原発に依存しない社会を実現していくという表現を現実的に訴えた方が通るのではないかという判断をした」と答えた。 この発言は、立憲の代表選で野田氏や枝野幸男氏が主張していた内容と同じだ。綱領の「原発ゼロ」を衆院選で封印したのは、国民民主党との選挙協力や、衆院選後に今の野党勢力で連立を組む場合の政策協議をスムーズに進めるためだろう。 大手電力会社の労組を支持母体とする国民民主は基本的に原発推進だ。今回の衆院選では「原子力発電所の建て替え・新増設により、輸入に頼らない安価で安定的なエネルギーを確保する」としている。 ◇維新、共産、れいわの主張は? 今回の衆院選では自民や国民民主の他にも、原発推進を掲げる政党がある。日本維新の会は「次世代原子力発電の活用を推進し、次世代エネルギーとして核のごみ問題を解決しうる核融合発電を柱に据えて技術開発を推進する」としている。 自民、国民民主、維新など原発推進派に対し、脱原発を明確にしているのは、立憲のほか、共産党と、れいわ新選組だ。 共産は「すみやかに原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、30年度に原発と石炭火力をゼロにする」と掲げる。 れいわは「原発は即時廃止。地域分散型の再生可能エネルギー普及を目指す」としている。 10月12日の日本記者クラブ主催の党首討論では、記者から「れいわは原発の即時廃止というが、電力料金が高騰すれば、生活に苦しんでいる方々を直撃する。最近はAI(人工知能)の進展で電力需要が飛躍的に高まるという予測も出ている。将来の目標はともかく、即時廃止で大丈夫なのか」という質問が出た。 れいわの山本太郎代表は「(原発の)代わりの電力というか、つなぎになるが、これは火力でいくしかない。火力の中でも天然ガスだ。一番環境負荷が少ないもので、アジア圏内でも調達できる。もちろん、それと並行して自然エネルギーの拡大が必要になってくる」と答えた。 山本氏は「資源価格(電力料金)の高騰に関しては、国が肩代わりする以外はない。そうやってでも原発をやめなくちゃいけない理由は、皆さんもご存じの通り、南海トラフ、首都圏直下などさまざまな大型地震がやってくる。それを考えた時に原発が耐えられるはずがない」と語った。 ◇原発の耐震性や核燃サイクルも議論に 原発の耐震性については、14年5月に関西電力大飯原発の運転差し止め判決を出した福井地裁の元裁判長、樋口英明さんが「日本で頻発する地震に原発は耐えられない」と主張している。 地震が来ても原発は必要な耐震性を備えていると電力会社は主張するが、樋口さんは「原子力規制委員会の新規制基準が定める耐震性は極めて低い。世界一厳しいというのは地震に関しては当てはまらない」と指摘している。その主張にはついては、毎日新聞経済プレミアで詳しくリポートしている。 山本氏は「(南海トラフや首都圏直下地震などに)耐えられる原発あります? 複数の地域で事故が起こるようなことになったとしたら、それこそ日本終了じゃないか」と訴えた。 さらに山本氏は10月13日のNHKの日曜討論で「(石破茂首相は)いつでも核兵器を作れるようにプルトニウムを保有しておきたいと。だから核のごみ(使用済み核燃料)をリサイクルする核燃料サイクルを止められない。これが本音じゃないかと思う」とも発言している。 日本が非核兵器保有国でありながら、核燃料サイクルで使用済み核燃料の再処理が例外的に認められているのは「日米原子力協定」があるからだ。日本政府は利用目的のない余剰プルトニウムを持たないと表明しているが、青森県六ケ所村の再処理工場が稼働すれば、余剰プルトニウムはさらに増えることになる。 日本が余剰プルトニウムを抱えることについては、これまでも「再処理で発生するプルトニウムは国際社会の懸念を招く」(国会の活動を補佐する国会図書館調査及び立法考査局)などと、国内外で指摘されている。 ◇公明は自民と違う? 一方、与党の公明党は原発などエネルギー政策について、衆院選重点政策で「輸入化石燃料への依存を低減させ、再生可能エネルギーの最大限の導入拡大に取り組む」と明記するが、原発に関する目立った記述はない。 前回の衆院選で公明は「原発の新設を認めず、将来的に原発ゼロをめざす」としていた。今回、公明の政策に「原発ゼロ」の記述は見つからないが、「原発の最大限活用」を目指す自民とは、同じ与党でありながら、立場が異なるようだ。 今回の衆院選で原発などエネルギー政策は目立たない存在だが、各党の公約や党首らの発言を比較するだけでも、これだけの違いがある。エネルギー政策は電力料金など私たちの生活基盤を支えるだけでなく、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分など、私たちが後世に責任を負う問題でもある。それだけに選挙戦では目が離せそうにない。