神戸市が高校生に広報用写真の撮影を依頼した理由
現代のようなウェブやSNSの時代では、いままでより写真や映像が持つ力は大きなものとなっている。大量の情報がネット上にあふれているため、スマホの画面などで見たときに、自分に関係ないものは、瞬時にスワイプされてしまう。 そんななかで神戸市は、7月17日、神戸国際大学附属高等学校(神戸市垂水区)と協定を結び、同校写真部の生徒たちに市がウェブサイトやSNS投稿で使用する写真の撮影を任せることにした。 神戸市がこの写真部の存在を知ったのは2カ月前。きっかけは、同校を進学先に考える中学生や親たちに学校生活の魅力を伝えるためにつくられた写真集だった。 写真集は、今年3月に初めて制作されたものだったが、これに収められた写真はすべて写真部の生徒たちが撮ったもので、デザインや装丁も部員たちによるものだった。 ■高校生たちの大胆で刺激に満ちた写真 これまで神戸市は、広報写真の撮影を、フリーランスの写真家やデザイン事務所に依頼していた。ところがこの高校生たちがつくった写真集には、プロが撮ったものと遜色ない写真が収録されていた。写真集を手にした神戸市の広報を担当する職員たちは、誰もがうなったという。 そこでよく調べてみると、1968年発足の同校写真部は、現在部員が30人。文化部の全国大会である「全国高等学校総合文化祭」に、この数年、上位入賞者を輩出していた。 さらに、写真の町として売り出している北海道上川郡東川町で毎年行われている「写真甲子園」の近畿ブロックの最終選考会に進んだ神戸市内で唯一の学校だった。兵庫県下でみてもトップの実力を持つ写真部といっても過言ではない。 そんな高校生たちの撮る写真には1つの特徴がある。大人のプロ写真家が撮ると、定石どおりの構図と光の使い方になるので優等生的で文句のつけにくい写真になりがちだが、部員たちが撮ると、大胆で刺激に満ちた写真がかなり見られる。 写真部顧問として生徒たちを指導しながら、兵庫県高等学校写真連盟では副理事長も務める渡邊陽介教諭は「こう切り取るのかと驚きを感じることが多いのです」と舌を巻く。 しかも部員たちは、毎月1回、プロの写真家を講師に招いて研修を受けている。なので、構図など写真の基本はしっかりと押さえられている。この手堅さと10代ならではの大胆な着想を組み合わせた写真が、SNS上では大きな力になると神戸市は判断した。 ■高校生部員たちの成長にも一役 また今回の依頼は、高校生たちにもメリットが生まれている。というのも、部員のなかには卒業後の進路に、芸術系大学の写真専攻を選ぶ生徒がいる。今年3月に卒業した写真部の部長は、大阪芸術大学写真学科に進学した。将来は撮影で生計を立てようと考えているのだろう。 だが、これまでの写真部の活動では、コンテストで勝てる写真を撮ろうとはするが、クライアント(顧客)からこんな写真を撮ってほしいと依頼される機会はなかった。