映画『ファイアバード』監督&主演俳優にLiLiCoが直撃! 旧ソ連領初の同性婚承認を導いた作品の裏側とは?
「衣装の軍服は忠実に再現されているんですが、着心地は……」
LiLiCo オレグさんにうかがいたいんですが、役者としてチャレンジだった思い出は? ザゴロドニー 一番強く記憶に残っているのは、やっぱり戦闘シーンです。グリーンバックの撮影だったので、実際にどんなふうになっているのか分からなかったんですが、完成版を観てバルト海をバックにしていたんですね。それが非常に印象的でした。また、セルゲイと一緒に暗室で現像した写真を見ているシーンも美しいですよね。 LiLiCo そのシーンは本当に素晴らしいですよね。 ザゴロドニー 実はあのシーンはセリフを書き換えてもらったんですよ。セルゲイとふたりでなにげなく冗談を言い合いながらも、彼らの気持ちがどんどん近づいていくドキドキ感を出すために、私たちがしゃべりやすいように変更をしてもらいました。 LiLiCo あそこは自分の心音が聞こえるくらいにドキドキしました。だって、その後KGBが乗り込んでくるんだもん(笑)。暗室もそうですし、冒頭の湖のシーンなどもそうですが、物語ゆえに暗めのライティングや印象的な色合いが多いですよね。 レバネ監督 それについては、ちょっとだけ話を戻す必要があります。セルゲイ本人……彼は2017年に亡くなってしまったんですが、彼と一緒に過ごした3日間が本当に貴重で素晴らしい機会だったんです。実話のモデルとなる本人からのインプットがあることがこんなにも貴重なことだとは、と感謝しています。 モスクワ郊外で会ったそのときは、ジョージア料理のレストランに行ったりロマンと一緒に映った写真を見せてもらって泣いてしまったことを覚えています。そのときに得られた情報が、色にも反映しているんですよ。 というのも、当時同性愛は社会的に禁じられて許されないことであり、それを映像で表現するためには色調のコントラストが必要だったんです。そのアイデアは撮影監督のマイト・マエキヴィさんから。彼はアンドレス・タルコフスキーの撮影監督をしていたヴァディム・ジュソフに師事した人で、タルコフスキーの色調の影響を大きく受けているんですね。たとえば、セルゲイとロマンのプライベートな空間では柔らかな黄色味、彼らが公の場にいるときは青、といった工夫をしています。 LiLiCo なるほど、美しいだけでなく意味も持たせたんですね。トムさんとオレグさんは役作りのためにされたことは? プライヤー 髪の毛の長さや洋服の着こなしなどのルックも大事ではあったんですが、時の経過をどう見せるかが勝負でした。セルゲイは軍を除隊したあと、鮮やかな色調の洋服を着ています。が、前半の軍人時代は軍服ですし、とてつもない閉塞感がある。このコントラストをつけるために、ビジュアル的な見せ方とともに内面から湧き上がってくる感情面で非常に苦心した覚えがあります。 それとともに、監督がおっしゃったとおり、現場のライティングやセットの色味はとても役に立ちました。私たちが書き上げた脚本のイメージどおりにしてくれた監督とマイトさんには大感謝ですね。 LiLiCo 影響を受けた作品などはあったんですか? プライヤー トム・フォードの『シングルマン』の色の使い方や、ウォン・カーウァイの『花様年華』ですね。どちらも大好きな作品なので、インスピレーションを得て脚本にしています。 ザゴロドニー 僕はほぼ軍服でしたからね。すごくバチッとしていて、見た目はいいんですが……実は着心地はあまりで(笑)。衣装の方が用意してくれたあの軍服は、当時の素材で作られたかなり忠実に再現したものなんですよ。そのせいか、見た目はいいんですが、とても堅苦しい。それもまた、生きにくい時代を反映していたんですね。 セルゲイとのロマンスや社会情勢だけでなく、将校だと軍の規律以外にもたくさんのルールに縛られていますし、現在とは比べ物にならないような環境です。役作りのために、NATOの基地にうかがい、兵士の人たちから軍における規律などを学んだことは、内面も外見も軍人になるために役立ちました。 プライヤー 私も物語の前半で着ていますが、あの軍服にはいくつかのバージョンがあるんですよ。軍人ルックでバシッときめるときはとてつもなく着心地の悪いカチッとしたバージョン、その一方で匍匐前進の訓練をしているときに着ているのは、ドロドロになってもいいような作業服的な感じ、と。個人的にはミリタリールックは好きなスタイリングなんですが、役作りとなると全然違いますね。 あと、ブーツに特徴があるんですよ。見た目はとてもかっこいいし、立ち居振る舞いを左右する小道具の側面もあるので、かなりこだわって作り込まれています。……が、これもまた履き心地は悪い(笑)。とにかく衣装部の人たちが細部にまでこだわって作り込んでくれたことには感謝しています。