【第81回ベネチア国際映画祭】北野武監督新作「Broken Rage」会場はやんやの喝采、笑い声で“たけしギャグ”健在証明 A・ロルバケル&JRもユニークな短編発表
第81回ベネチア国際映画祭も大詰めを迎えた9月6日、北野武監督の新作「Broken Rage」がアウト・オブ・コンペティション部門で披露された。上映には北野監督とともに、共演の浅野忠信、大森南朋が参加。イタリアの「キタノ・ファンクラブ」のメンバーも集まり、三人が会場に入るなり、やんやの喝采に。終映後は「ブラボー」の声とともにスタンディング・オベーションとなり、相変わらずの北野人気を物語った。 ビートたけしとして主演も果たし、監督と2役を務めたその新作は、Amazon MGMスタジオの製作によるAmazon Original映画。62分という尺で、配信のみになる予定だ。前半のシリアスな部分と、後半に同じストーリーをコメディタッチで描く2部構成が斬新である。上映中はげらげらと笑いが起き、「たけしギャグ」が健在であることを証明した。 ストーリーは、謎の依頼者のもとで殺しを遂行する殺し屋が警察から目をつけられ、覆面捜査官としての協力を要請されるというもの。ヴァイオレンス・アクションとして幕を開けつつ、前半にもどこかオフビートな味がある。海外の批評家からも、「ユニークで実験的なフォーム」「大胆で挑戦的で面白い」といった声が聞こえた。 上映に先立つ記者会見で北野監督は、「今回はテレビの画面で観る映画だし、自分でやってみたいことをテストケースとして気楽に撮った。それがまさかこんな(ベネチアに来る)ことになるとは。もっと真剣にやるべきでした」と答えて場内の笑いを誘った。 北野映画の特徴を尋ねられた俳優のふたりは、「現場での緊張感が他の映画に比べるとまったく違います。すぐに本番に行くので、それまでにちゃんと用意を整えておかなければいけないというのがあり、それが緊張感に繋がるのですが、今回はとくにお笑い的な要素を担わざるを得なかった(笑)。その辺の緊張感も日々、浅野くんと共に感じていました」(大森)、「僕は『座頭市』(2003)でもベネチアに連れてきて頂いたんですが、そこからずいぶん時が経って『首』(2023)という時代劇をやり、そこで監督と面白い時間を過ごさせて頂いたのがとても新鮮で。そんななか今回のお話を頂いたので、これは前回のあの面白いことが、またさらに高い要求となってきたんだなと思い、一生懸命やりました。果たして正解になったかどうかは自分ではわからないですが、出来上がった作品を観たら面白かったので、良かった!と思いました」(浅野)とそれぞれ率直な思いを明かした。 また映画内でSNSのチャットが使われていることに対して北野監督は、「自分は最近よくチャットを見るようになって、チャットの影響が多くなった。この映画を撮ったとき、2時間を超えると思ったんですが、じつは1時間ちょっとしかなく、なんでこんなに短いのかと思ったら、今の人たちがチャットをやるその時間感覚に、自分も毒されているのだとわかり焦った。それでチャットを入れることでどうにか時間を伸ばしてごまかそうと思い、チャットシーンを入れることにしました」と答えて、再び会場の笑いをとった。 さらに1時間という時間枠のなかで前半と後半に分けてトーンを変えたことに関して、「パロディ映画の場合、その基本になるものが有名であれば、すぐにパロディとして通用しますが、オリジナルのストーリーの場合、パロディになる部分を前半に流さなければならない。だが長いと飽きるし、短いとそんなにパロディにできないので、その辺の戦いでもありました。最初にみんなが飽きるような映像を見せた後、そのパロディを見せるという冒険をやったわけですが、それでもまだ短すぎた(笑)」と語った。 実際は作品を観る限り、この1時間という尺が物語のフォーマットに最適な印象を受ける。 短編といえばアウト・オブ・コンペティション枠で紹介されたアリーチェ・ロルバケルと写真家、JRによる21分の共同監督作「Un Urban Allegory」もユニークだった。ロルバケルの誘いで実現したコラボレーションは、ギリシアの哲学者、プラトンの洞窟の寓話(洞窟に住む、鎖で縛られた人々が、壁に映る影を実体だと思い込む)からインスパイアされたショートストーリー。これを現代のパリに当てはめ、猥雑な街、ダンス、洞窟のような場所、といったアイディアをもとに語る。 キャストにはニナ・クードリ、そして「洞窟から出てきたようなイメージの演出家」をレオス・カラックスが演じる。ロルバケルによれば、これまでカラックスと面識はなかったが、このイメージにぴったり合う人として思いついたのが彼だったとか。物語の途中には、JRが2023年秋、オペラ・ガルニエ宮のファサードを用いておこなったインスタレーションの映像も使用され、現代人と洞窟の囚われ人とを重ね合わせた詩的な考察と言えるような作品を織り上げた。(佐藤久理子)
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