トンネルを掘り続ける『Core Keeper』はなぜ話題作となったのか プレイヤーを魅了した“時間が溶ける”仕掛けに迫る
『Core Keeper』は累計300万本販売した超話題作だ。“時間が溶ける”系ゲームとして知名度が高く、ストリーマーのゲームプレイ動画でも露出が多い。タイトル名を耳にし、どんなゲームか気になった人は多かろう。発売済みのSteam版を通じ、本稿で「話題作となった理由」を分析する。Nintendo Switch版はデジタル版が2024年10月17日、パッケージ版が10月29日発売予定なので心待ちにされたし。 【画像】大きな話題となった『Core Keeper』のスクリーンショット 本作はサンドボックス型の2Dアクションゲームである。プレイ感が近いゲームで例えると、『マインクラフト』と「ゼルダの伝説」シリーズが一緒になったと思えばよい。先にあげた2本のどちらかを遊んだことがあれば、プレイ感をイメージしやすいだろう。さらに、いつでもマルチプレイに参加できるので友人に声をかけたくなるゲームだ。声のかけやすさがプレイヤー人口の増加につながったのであろう。 もちろん、有名タイトルと似ていてプレイヤーが多いから話題作だ、というのは理由として弱い。数あるサンドボックス型ゲームの中から頭ひとつ抜けて話題作となったのは、ゲーム側があらかじめ用意した遊びで多くのプレイヤーが夢中になったからだ。洞窟を掘り進み、抜けた先の空洞を探索・戦闘する、この繰り返しがすこぶる楽しいのである。 『Core Keeper』の花形はサンドボックス要素だが、本稿ではやりこみ要素として紹介を割愛する(エンドゲームの内容はSteam版の開発ブログを読まれたし)。メインコンテンツたる洞窟世界の冒険に主眼を置き、筆者が夢中になった時間を振り返りつつ、「話題作となった理由」を考えたい。 ■全てのトンネルはボス戦に通ず 本作の目的は地下世界を探索してボスを撃破することだ。16bitゲーム機調ピクセルアートで描く洞窟を、アクションとクラフトでサバイバルしよう。ツルハシでトンネルを掘る。クワで土を耕す。剣や銃、魔法で敵を倒す。それらアクションに用いる道具をクラフトする。このメインコンテンツは十分な量だ。舞台の地下世界が果てしないほど広いのである。 ゲームは探検隊の主人公が謎の遺跡に触れ、暗い洞窟にひとりで転送されたところから始まる。チュートリアルはなく、手探りでいろいろ試すと、サバイバルに要する素材は「掘れば出る」と分かるだろう。少し掘り進めば空洞につながり、戦闘や素材、得体の知れない何かと出会う。次は何が出てくるのだろうか? トンネル掘りはワクワクの連続だ。 探検エリアをもっと広げたい。この欲が拠点設立のきっかけとなる。スタート地点から離れると岩が硬くなるからツルハシを強化し、敵も危険度が増すから武器と防具を強化しよう。それらの素材となる金属のインゴットは掘り出した鉱石をかまどで溶かして作る。かまどは持ち運べないので拠点に置いていこう。 時間が経つとおなかが空くから食べ物がもっと必要だ。食材を調理して効率良く腹を満たそう。次は食材の安定供給だ。クワで農地を耕しタネを植えよう。農地は持ち運べないので拠点を拡張することになる。探索エリアが十分に広がったならインフラ整備に着手したい。線路を敷けばトロッコで高速移動できるぞ。ラクへの意欲が強い人は素材収集の自動化工場に挑戦すべし。 探検と戦闘、そして拠点の拡張はどこまで続くのか。それは驚くほど広い地下世界の果てまで続く、と匂わせておこう。ゲーム開始時の石像が提示する3体のボスを倒すと地下世界はさらに広がり、新たな敵種類や上位素材、レア装備品が登場する。そして新たなボスが新世界のどこかで待ち受ける。もっと遠くには何があるのか? プレイヤーの好奇心に応え続けるのだから、トンネル掘りを止められない。 ■キャンプで作るカレーはおいしい理論 面白いことに、ゲーム参加人数にかかわらずトンネルの固さや敵の強さは同じである。『Core Keeper』はゲーム側が用意した地下世界をマルチプレイで掘り尽くすのを良しとしている。人手が足りないと感じたときはフレンドに手助けしてもらおう。ボイスチャットでワイワイしながら遊ぶのが好きなら、ゲーム開始の最初から協力プレイを薦める。マルチプレイは招待制で、どのタイミングでも参加・離脱できるのがありがたい。 本作は最大8人でオンラインプレイできる。全プレイヤーが同じ画面にいる必要はなく、各地に散っての作業分担が可能だ。トンネルを掘って空間を作る係。空間を農地や牧場にする係。手狭となった拠点を広げてリフォームする係。そして未開の地を探索する係。このように、プレイヤー各々がやりたい遊びにいそしめる。 もちろん協同作業も楽しいぞ。トンネルはサクサク掘れるし、余った人手がたいまつを立ててくれたなら明るくて安心できる。戦闘もプレイヤー数人でかかれば、敵の攻撃対象が分散するので隙を狙いやすい。ボス戦がツラいと感じたなら迷わずフレンドに声をかけよう。みんなで力を合わせて巨大ボスをやっつけるのは、さながらレイドボスバトルのようだ。 ゲーム展開の大筋に「ボスを探して倒す」がある。画面外でやることを分担しても、同画面でひとつの目標に挑んでも、成果を報告すればゲーム展開の進捗だ。アウトドアキャンプのカレー作りをイメージするとよいだろう。参加者各々が得意かつやりたいことを分担して達成した、貢献感と満足感。それは素材集めの自動化工場をひとりで建設するのと同じぐらい、夢中になれる時間である。 ■退屈とスリルを選べるから夢中になれる 夢中になるのに理由はいらないが、夢中にさせるためには仕掛けがいる。『Core Keeper』の仕掛けは、簡単な作業から困難な課題まで幅広く用意した山盛りのタスクだ。タスクの中から、退屈とスリルの割合をその日の気分で選べばちょうどいい塩梅の遊びとなる。困難にぶつかったときの壁を超える手段としてオンラインマルチを使えるのもいい。これもプレイヤー各々に適した遊びやすさとしてカウントしたい。 もちろん、以上で紹介したプレイ感は冒険心をかきたてる雰囲気があってこそだ。のどかな日常にいとしさを覚えるのも手触りの良さがあってこそである。自然光源が空洞の神秘感を演出し、たいまつなど照明の有無で既知の安堵・未知の危険を醸す。地下世界に大小あるエリアでは生態系の描写が興味を引く。虫やミミズやカタツムリなどが地を這う、細かな芸も披露するぞ。BGMもエリアを印象づけるシーンや戦闘シーンごとに曲を用意しゲーム画面とマッチする。アクションのモーションや効果音も何をやったか分かりやすく、作業のリズムを刻んでくれる。心地よさすら感じてしまう。 『Core Keeper』が数あるサンドボックス型ゲームから頭ひとつ抜け、これだけの話題作となった理由は、ゲーム側の練磨にある。タスクのやりがいを盛りあげる手作業の心地よさ、プレイヤー操作に応じたリアクションの積み重ねがすばらしい。拠点を工場とし、宮殿のごとく飾り付ける。探検と戦闘を突き進む。そうした計画や期待を抱きながらトンネルを掘るのが楽しいのだ。掘れば掘るほどワクワクは広がり、時間が溶けてしまうのである。
野村光