お腹の不調は腸が原因? 消化器内科医が過敏性腸症候群などの病気と胃腸の調子の悪さからくる症状を解説
お腹の不調で病院を受診するときの目安は? 検査方法や診断基準を消化器内科医が解説
編集部: お腹の調子が悪いときには、病院を受診した方がいいのでしょうか? 宮田先生: 便秘や下痢は身近な症状ゆえに、「大したことない」と放置する人が多いのですが、長期間・繰り返し不調が続く場合は注意が必要です。便秘と下痢を交互に繰り返す場合もありますし、また、硬い便が出た後に下痢が起きるという場合もあります。そのような場合は、念のため消化器内科を受診することをおすすめします。 編集部: なぜ、受診した方がいいのですか? 宮田先生: 過敏性腸症候群は一般的な疾患ですが、自分では病気と気づかず、放置している人が少なくありません。しかし、実際には過敏性腸症候群ではなく、潰瘍性大腸炎が起きている場合もあります。また、便秘と下痢を繰り返すことで仕事や勉強に影響も及びます。 編集部: お腹の不調が続くときには、どのような検査がおこなわれるのですか? 宮田先生: 一般的におこなわれる検査は、問診、血液検査、腹部CT検査です。腸の炎症が疑われる場合には、大腸内視鏡検査をおこなう場合があります。 編集部: 過敏性腸症候群の診断基準は? 宮田先生: 大腸などに大腸がんなどの悪性疾患や炎症性腸疾患などの異常がないことが明らかであり、以下の条件を満たす場合には、過敏性腸症候群と診断されます。 ■IBSの診断基準(ローマⅣ基準) 繰り返す腹痛が、最近3カ月の間で平均して少なくとも週1日あり、次のうち2つ以上の基準を満たす 排便に関連する 排便頻度の変化を伴う 便形状(外観)の変化を伴う ※少なくとも診断の6カ月以上前に症状があり、最近3カ月間は基準を満たしていること 編集部: 過敏性腸症候群は治るのですか? 宮田先生: はい。生活習慣を改善し、ストレスをためないことが重要です。それでも症状が改善しない場合は、薬物治療をおこないます。
お腹の不調の対処法や医療機関で受けられる治療法 お腹の調子を整えるために自宅でできるセルフケア
編集部: 薬物治療について、もう少し詳しく教えてください。 宮田先生: 腸の運動を整える薬やビフィズス菌などの体にとって有用な働きをする菌の製剤(プロバイオティクス)、便の水分バランスを調整する薬などを用います。そのほか、下痢が続く「下痢型」や、便秘が続く「便秘型」など、症状に応じて薬を使い分けます。 編集部: 自宅で気をつけるべきことはありますか? 宮田先生: 治療で重要なのは、食事療法と運動療法です。炭水化物や脂質を多く含む食事のほか、コーヒー、アルコール、香辛料などをたくさん摂ることで症状が悪化することもあります。そうした傾向がある場合には、それらの食品を控えるようにしましょう。また、適度な運動も症状を軽減するためには必要です。 編集部: 食事内容に気をつけることも大切なのですね。 宮田先生: はい、過敏性腸症候群の人は、「低フォドマップ食」を意識することも必要です。 編集部: 低フォドマップ食とはなんですか? 宮田先生: フォドマップは、小腸で吸収されにくい発酵性の糖質の総称です。次の頭文字を合わせてFODMAPと呼ばれています。 F(fermentable)発酵性の糖質 O(oligosaccharides)オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖) D(disaccharides)二糖類(ラクトース) M(monosaccharides)単糖類(フルクトース) And P(polyols:ポリオール)糖アルコール 編集部: 具体的には、どのような食品を指すのでしょうか? 宮田先生: オリゴ糖では納豆、キムチ、小麦、玉ねぎなど、二糖類では牛乳やヨーグルトなど、単糖類では果物やはちみつなどがフォドマップ食として挙げられます。ポリオールではキシリトールやソルビトール、マッシュルームなどがあります。これらの食品は小腸では吸収されにくく、過度に取り過ぎると腸が過敏になったり、下痢、便秘などを引き起こしたりすることがあります。 編集部: 一般に、体に良いと言われるものが多いですね。 宮田先生: たしかに、これらの食品は通常、体に良いとされています。しかし、過敏性腸症候群の患者さんに限っては、体に悪影響をもたらすかもしれないと言われています。そのため、症状に困っている場合はこれらの食品を減らしてみるのも1つの手だと思います。 編集部: そのほか、過敏性腸症候群の人が気をつけることはありますか? 宮田先生: 過敏性腸症候群の人は健康な人と比較して、機能性ディスペプシアや胃食道逆流症を合併するリスクが2倍以上高いとされています。また、うつ状態や不安などの心理的な症状を合併することも多く、そのほか、潰瘍性大腸炎やクローン病が発見される確率も高いことがわかっています。気になる症状があれば、早めに専門医へ相談しましょう。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 宮田先生: 過敏性腸症候群は患者数が多い疾患ですが、一般の人にはなかなか理解されにくいものだと思います。しかし、放置すると日常生活に支障が出たり、QOLを低下させたりする原因になり得ます。困っている場合は、お早めに消化器内科へご相談ください。