「鬼になれ」亡き祖父先代の教え体現 琴桜初V「ここで終わりじゃない」来場所綱取り「先代に追いつく」
◆大相撲九州場所千秋楽(24日・福岡国際センター) 大関・琴桜が14勝1敗で初優勝を果たした。21年ぶりとなった大関同士による千秋楽相星決戦で、豊昇龍をはたき込んだ。大関5場所目、27歳での初賜杯は祖父で先代師匠の元横綱・琴桜と同じ。来年初場所(1月12日初日、東京・両国国技館)では初の綱取りに挑む。2度目の優勝を逃した豊昇龍も13勝2敗の好成績で、日本相撲協会の高田川審判部長(元関脇・安芸乃島)は来場所、“ダブル綱取り”となる見解を示した。大の里は新大関場所を9勝6敗で終えた。 【九州場所】番付&星取表 初優勝を決めた瞬間、琴桜は鬼のような厳しい形相で「ふっ」と大きく息を吐いた。館内の大歓声と拍手を背中で浴びながら下がる花道でも興奮冷めやらぬ表情。祖父が1973年名古屋場所で優勝して以来、51年ぶりに「琴桜」として賜杯を大事そうに抱き、「重かった」とかみしめた。 2003年名古屋場所の魁皇―千代大海以来、21年ぶりの大関同士の千秋楽相星決戦。「土俵に上がる時に、思っている以上に気持ちが高ぶっていた」。豊昇龍の強烈なのど輪を浴びたが、いなしやのど輪で応戦。右上手を許して投げを食らっても右足一本で耐えると、最後は相手が足を滑らせるように崩れ落ちた。「がむしゃらに取っていたので内容は覚えていない。気づいたら相手が落ちていたので、それでやっと勝ったと実感した」と、自己最多の14勝目。今年の66勝目も挙げ、単独の年間最多勝も確定した。 亡き祖父で先代師匠の元横綱・琴桜と同じ27歳、大関5場所目での初優勝。祖父、孫が優勝を果たすのは初めての快挙だ。「そろそろ優勝しないと先代にも怒られると思った。間に合って良かった」と笑わせた。場所後の26日は祖父の誕生日で、花を添える結果に。また、今場所中には元横綱の北の富士勝昭さんが他界。日頃から気にかけてくれる存在で、天国の両横綱にいい報告がかなった。 先場所は腰を痛めた影響で8勝止まり。その間、大の里が新大関に駆け上がり、主役の座を奪われた。生前の祖父からは「鬼になれ」と教えられてきた。かつては理解できなかったが、「情けはいらないということ」と琴桜。時間いっぱいで鬼の形相になるなじみのルーチンは、本人もいつから始めたかは覚えていないが、「瞬間にスイッチを入れようと思ったのがきっかけ」と祖父の教えを体現。大一番で鬼になり、ついに賜杯を手に入れた。 父で師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)は「目指すところはここじゃない。先代と同じ番付だろう」と、日頃からハッパをかける。琴桜も理解しており、「ここで終わりじゃない。切り替えてやっていく」と先に目を向けた。祖父と同じ横綱へ向け歩みは止めない。(三須 慶太) ◆琴桜 将傑(ことざくら・まさかつ) ▽本名 鎌谷 将且(かまたに・まさかつ) ▽生まれ 1997年11月19日、千葉・松戸市。27歳 ▽相撲歴 2歳から相撲を始め、埼玉栄中、高。高校3年時に全国総体団体優勝、世界ジュニア選手権で団体戦、個人重量級制覇 ▽角界入門後 2015年九州、初土俵。19年名古屋、新十両。20年春、新入幕。23年初、新三役。24年春、新大関 ▽三賞 敢闘賞5回、技能賞1回 ▽サイズ 189センチ、178キロ ▽得意 右四つ、寄り、押し ▽改名歴 初土俵時は「琴鎌谷」、新十両昇進を機に父で師匠のしこ名の「琴ノ若」を継ぎ、大関2場所目から祖父のしこ名である「琴桜」を襲名した ▽家族 両親 ▽趣味 朝ドラ観賞も最近は「時間がなくて見られない」 ▽好きな漫画 ONE PIECE(ワンピース) ▽本名の由来 本名の将且(まさかつ)は、祖父のしこ名「琴桜傑将(まさかつ)」が由来。下のしこ名も祖父の名を逆にしたもの。読み方は同じ ▽水泳 2歳~小6までスイミングスクールに通い、個人メドレーも習いターンもできたが「今は無理ですね…」 ▽祖父―孫V 初めて ▽千葉県出身V 1991年名古屋場所の琴富士以来 ▽佐渡ケ嶽部屋V 2016年初場所の琴奨菊以来 ▽大関の14勝V 17年初場所の稀勢の里以来 ◆横綱の同時昇進 過去に5例。来場所に同時昇進となれば、1970年春場所の北の富士、玉の海以来となる。それ以前には61年九州場所の大鵬、柏戸の例があり、横綱に同時昇進したライバル関係はそれぞれ「北玉時代」「柏鵬時代」と呼ばれるなど一時代をつくってきた。 ◆琴桜に聞く ―悲願の初優勝。 「近づいても届かず、悔しい思いがあった。辛抱してやれば賜杯を抱けると実感できた。満足しているわけではないが、自分の中で目標を一つ達成できた。入門(初土俵)した場所で決められて良かった」 ―今場所を振り返って。 「良くない内容もあったが、それでも一つずつ白星につなげていけて、どんどんいい相撲に変わっていって、最後にしっかり結果につながったのかなと思う」 ―師匠は「楽しんでいるようだ」と言っていた。 「変な緊張感もなく一日一日を集中して、自分らしく相撲を取れていたと思う」 ―先代にはどう報告を。 「先代は横綱。『ここで満足するな』と言われると思うので、しっかりとここからまた次の場所へ向けて準備して、先代に追いつけるようにやっていければ」 ―綱取りへ何を磨く。 「今持っている持ち味もそうだが、先代親方にも師匠にもないような相撲を取っていきたいと思う」
報知新聞社