北京政府への忖度も? 香港人の思いと建国70年記念日
長引く衝突で香港経済や観光への悪影響の懸念
「逃亡犯条例」改正案に反対する市民によって始められた大規模デモから間もなく4か月。市民と警察の衝突は、いまや香港では日常の光景となり、香港経済への影響を懸念する声が出ている。観光の客足を危惧する声も後を絶たない。香港政府観光局は先月30日、8月の香港訪問者数が前年同月比で約39パーセント減少したと発表した。今年1月から8月までの期間を前年と比較した場合、訪問者数は実は4パーセントほど上昇しているのだが、8月の減り具合は2003年の新型肺炎SARS騒動以降では最大となった。昨年8月には約590万人が香港を訪れたが、1年で訪問者数は約360万人にまで落ち込んだことになる。最も減ったのは中国本土からの観光客であった。 しかし、観光業以外にも、香港には金融関係をはじめとするさまざまな産業が存在する。前述のチャン氏は、将来的な失業という点で、長引く衝突による香港小売業への影響を憂う。 「香港経済に与える影響でいえば、すでに深刻な影響が出ている。小売売上高は30パーセント減少し、まだ正確な数字は発表されていないものの、失業率の上昇は必至だ。小売業界の売り上げが香港のGDPに占める割合は10パーセントほどだが、実は最も多くの雇用を生み出しているのが小売業でもあるのだ」
前回の記事で警察の暴力について触れたが、10月1日を前にして、その傾向はさらに強まっていると言わざるを得ない。先週末に行われたデモで、警察が至近距離から発射した弾がインドネシア人ジャーナリストの頭部を直撃。彼女は病院で治療を受けているが、頭部と目を負傷し、弁護士を通じて法的措置を検討していることを明らかにした。ジャーナリストだけではなく、負傷した市民を助けようとした医療ボランティアのメンバーが警察によって負傷者から引き離され、一時拘束される事態も発生している。 台湾メディアの記者として9月末まで香港に約1か月滞在し、各地で行われた集会やデモ行進を精力的に取材したジャーナリストのワン・ハオユー氏は、警察の鎮圧方法が過激さを増すことに警鐘を鳴らす。 「警察と市民の信頼関係は崩壊しています。白昼堂々、多くの人が目撃する中で複数の警察官が明らかに破壊行為とは無関係な市民を執拗に殴るのを見た時、市民の目が届かないところでどんな事が起こっているのだろうかと怖くなりました。(デモ隊の)暴力行為や破壊活動が急増していると警察は主張しますが、市民は警察からの自衛だと主張し、平行線をたどっています。両者の溝が埋まる気配は全くありません」 多くの市民と香港行政府との関係悪化が香港経済に大きな影響を与えるとの懸念がある中、行政府の次の一手にも注目が集まっている。行政府のキャリー・ラム長官は11月に予定されている議会選挙について、反政府運動が悪化した場合には取り止めの可能性があることを示唆している。香港では1日午後から大規模な反政府デモが計画されているが、香港の今後はどうなっていくのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う