北京政府への忖度も? 香港人の思いと建国70年記念日
市民の怒りの背景には格差社会への喪失感も?
1997年に香港がイギリスから中国に返還された際、それまでの香港の社会システムは少なくとも返還後50年は維持されるという取り決めが交わされていた。だが香港社会の自由さが2047年まで維持されることは到底無理な話だと危機感を抱いた若い世代が、デモなどを通して「5つの要求」を香港行政府に突き付けたことはよく知られている。これには、民主的な社会制度の維持だけではなく、格差が拡大し続ける香港社会に対する憤りも、若者がアクションを起こす要因になっていると、地元でファンド会社を経営するロナルド・チャンさんが指摘する。 「香港では月収2万5000香港ドル(約35万円)でミドルクラス層と考えられているが、これは約400万人いる労働人口全体の中で3割しか占めていない。残りの約7割は月収2万5000ドル以下で生活をやりくりしている」 香港の1人あたりの名目GDP(国内総生産)は、2018年に4万8000ドル(約500万円)を突破。日本よりも1万ドル近く多いものの、今年5月に引き上げられた法定最低賃金は約510円ほどだ。つまり、持つ者と持たざる者との間で大きな格差が存在する。チャン氏が続ける。 「問題はトップの30パーセントがさらに稼ぎ、残りの70パーセントの収入はわずかしか増えていないという点だ。5つの要求には含まれていないものの、経済格差の是正は香港人にとって大きな関心事だ」 5000人近いフォロワーを抱え、ソーシャルメディアで「本小姐」というハンドルネームで市民デモ関連のニュースを連日投稿するソーシャル・メディア・アクティビストの女性は、香港の経済格差はもはや元には戻らない状況に陥ったという。 「かつてはアメリカン・ドリームに似た香港ドリームの存在を信じていました。頑張っていい学校に入り、その後も必死に働けば成功するという考えです。しかし、雨傘運動が失敗に終わった頃から香港ドリームはしょせん夢物語だと私は悟りました。香港の自治権が返還後少なくとも50年は維持されると信じていたのに、それすら怪しくなってきた今、せめて自由だけは失いたくない。そう思って、働きながらネットで活動するようになったのです。同じような思いで行動している人は他にもいますよ」