「再エネ投資をしないとデジタル敗戦」って本当なのか?それよりも原子力と火力で電気代を安くせよ
■ 昼間の太陽光発電で夜にライトアップするという「冗談」のような話 実際のところ、証書を使うとじつに奇妙なことが可能になる。 東京都が50億円かけて都庁舎の壁にプロジェクションマッピングをする計画を提出した。これに対して上田令子都議が「CO2削減と言っていることと矛盾していませんか」と質問したところ、都は「再エネで」実施します、と答えた。 昼間しか発電しない太陽光発電で夜にライトアップするというと、まるきり冗談のようだが、結局のところ「証書」を買うだけのことなので、「太陽光発電の夜間ライトアップ」という物理的に有り得ないことが起きる。 けれども現実には、このような証書に頼らない限り、データセンターや半導体工場のような電力消費の多い事業所において、太陽・風力100%を標榜することはまず無理である。 理屈のうえでは太陽光・風力にバッテリーを付ければできるかもしれないが、そんなことをすると、バッテリー代が嵩んでとんでもないコストになり、現実的ではない。 なお「証書」の購入の代わりに、電気事業者の再エネ電気メニューや再エネ発電事業者とのPPA契約(電力供給の相対契約)が用いられる場合もあるが、本質は変わらない。すなわち、再エネ100%を標榜していても、物理的には、火力発電などの電力を購入している。 世界の製造業のシェアを付加価値ベースで見ると、中国が29%、米国が16%、日本が7%となっている。脱炭素に熱心だという欧州は、ドイツこそ5%だが、イタリア、フランス、イギリスは各2%しかない。これは産業空洞化の結果だけれども、愚かな脱炭素政策のせいで状況はますます悪化の一途だ。 【関連記事】 ◎世界は脱炭素に向かってなどいない、日本の製造業はグリーン最優先のエネルギー基本計画で壊滅する
■ 日本はどうするのが正解か 製造業ナンバー1の中国で「再エネ100%」と称される電力とは、物理的には石炭火力発電であるにもかかわらず、「証書」を買うことで達成するものだ。 同様に、製造業ナンバー2の米国での「再エネ100%」電力とは、物理的にはガス火力発電であるにもかかわらず、「証書」を買うことで達成するものだ。 それで日本はどうするのか? 現状ですら電気料金が高いのに、さらに再エネを導入して電気代を上げてしまうのでは、国際競争に勝てるはずがない。データセンターや半導体工場はおろか、どの産業も逃げ出してゆく。 日本はまず、とにかく電気を低廉にすることが大事だ。そうすれば、有り余っている「証書」も使って国際競争力のある「再エネ電気」を供給できる。 低廉にするためには、原子力の再稼働、新増設がまず第1だ。それでも間に合わなければ、火力発電の出番である。既存の火力を維持し、さらには新規の火力発電所を建てる。燃料の調達は長期契約で行えば、価格高騰を抑えることもできる。 一方で、データセンターや半導体工場など、将来の電力需要がどのようになるか、はなかなか予想がつかない。半導体は省エネも進むけれども、情報処理の需要がそれを圧倒するかもしれない。生成AIなど、新しい技術が、これまでになかった形でのエネルギー需要を生み出しているからだ。