「再エネ投資をしないとデジタル敗戦」って本当なのか?それよりも原子力と火力で電気代を安くせよ
(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) ■ データセンターや半導体製造といった電力多消費産業が成長する 【グラフ】今後10年の電力需要想定。伸びるといっても昔の水準に戻るだけだ 第7次エネルギー基本計画の検討がはじまった。 政府資料を見ると 今後はデータセンターや半導体製造といった電力多消費産業が成長するために電力需要が増大する 大手IT企業は再生エネルギーによる電力を求めている したがって再エネ投資をしないと日本は国際競争に勝てない と言っている。 例えば以下の箇所だ(図1の下線部と図2)。 再エネに投資しないと、それに起因する「デジタル敗戦」が起きる、と言いたいらしい。 だが本当だろうか? むしろ、再エネ投資をすれば電気料金が上がって、IT企業のみならず、日本中から産業がなくなるだけのことではないか? 以下、順に検討しよう。
■ 電力需要は伸びるといっても昔に戻るだけ まず今後の電力需要について。政府資料によると図3のような見通しになっている。 これを見るとたしかに電力需要は増大に向かうことになっている。これは過去の傾向から逆転しており、確かにそれなりに顕著な変化である。けれども、増加の絶対量はさほど多くない。せいぜい2018年水準に戻るだけであり、2012年水準よりも低い。 ということは、再エネ発電はもちろんのこと、新たな火力発電所の建設すら、基本的には必要ないはずだ。 図4を見ると、現在運転が止まっている原子力発電を再稼働すればそれだけで十分足りることが分かる。すなわち、仮に原子力の比率を現在の6%から2030年に20%まで14%だけ引き上げるならば、1割以上の電力供給増大になる。 図3の電力需要増大は8000億キロワットアワーから8400億キロワットアワー程度までのせいぜい5%の増加に過ぎないので、全ての原子力の再稼働まで至らなくても電気は足りる。 ■ 再エネが足りないというのは本当なのか? 日本の電源構成のうち、再エネ(水力を含む)は22%、原子力は6%となっている(図4、2022年度)。 太陽光や風力など再エネで発電した際に発行される「非化石証書」によって、「非化石価値」はバラ売りされるようになっている。けれども需要が供給の10分の1しかないので、その価格は事実上ゼロになっている(図5)。すなわちキロワットアワーあたり0.4円といった、政府が決めた最低価格水準に張り付いたままだ。 このように、現状では再エネは「あり余っている」。