〝滑り込み世代〟は黄金世代を超えるか?プロテストに〝ギリ〟合格した新世代ゴルファーたちの歓喜
4オーバーの8人が「滑り込み」で合格
10月29日~11月1日、’24年度の日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)最終プロテストは、日本を代表する名門コースである茨城県の大洗ゴルフ倶楽部で開催された。太平洋に面したシーサイドコース特有の難しさがあり、特に海風が強い日はプレーが一層難しくなり、選手たちは風との戦いを強いられる場面も多くあった。 【電話の相手は…】おめでとう!…祝福の電話に笑顔で応える吉田鈴 合格ラインはトータルスコア3オーバーと4オーバーの間で変動。4オーバーの選手たちは緊張しながらスコア速報を注視し一喜一憂した。全選手がホールアウトした結果、3オーバーの選手はおらず、4オーバーの8名が19位タイとして合格ラインに。スコアが確定した瞬間、4オーバーの選手たちは、悔し涙が嬉し涙へと変わり、晴れてプロ入りの資格を手にしたのだった。 合否が確定するまでの間、今回が6度目の挑戦で4オーバーでホールアウトした青木香奈子(24)に「合格したら何世代と呼ばれたい?」と聞くと「『滑り込み世代』。プラス4の人たちだけだけど(笑)」と冗談交じりに答えてくれた。“滑り込み”で合格したその中の3名に話を聞いた。 ◆六車 日那乃 (22)埼玉県出身 5回目のプロテスト アマ時代は宮里藍、横峯さくら、勝みなみ、稲見萌寧、畑岡奈紗、古江彩佳、吉田優利、西村優菜ら世界を舞台に活躍する選手を数多く輩出した日本ゴルフ協会(JGA)ナショナルチームのメンバーだったこともある実力派。トップアマとしてプロテストに挑むも、合格ラインに届かず4度も涙してきた。今回のプロテストでは最終日18番ホールでまさかのボギー。トータル4オーバーでホールアウトした。「あっ、終わったって思って。また1年無駄にしちゃったって感じました」とその瞬間を振り返っていた。だが、結果は見事合格となった。 「なんか今までの人生が自分の理想とはちょっと違ってたんですけど、でも今、またそこに向けてスタートできるっていうか……『もう一回夢を見たいな』って思います」 期待されながらもなかなか届かなかった合格ライン。つらい日々がよみがえり感極まって涙を浮かべた。支えてくれた人たちへの感謝を何度も口にする。 「長い道のりだったけど、『その苦しい時間があったからこそ充実してた』って感じます。本当に応援してくれた方には感謝しかないです」 プロテスト合格後、辻村明志コーチから「頑張ったね」というねぎらいの言葉をもらい、「もう一度リスタートして、上を目指していこう」と励まされた。「本当にうれしかったです。『よし、やるぞ!』って気持ちになりました」。同門で先輩の上田桃子プロからは「もっと嬉しがっていいよ! 1週間くらい『いえ~い!』って感じで過ごしたら」と言われたという。「自分、そういうタイプじゃないんですよね(笑)。もう『次だ!』って気持ちでいます」と、早くも次のステップに意識を向けている。だが、その一方で合格のご褒美の韓国旅行も楽しみだと笑顔で語る。 「美容が大好きなんです。『肌を綺麗にして、プロとして見せられる肌にしたい』っていうのも目標です。ネイルも全然できてなかったので、稼いで余裕ができたら自分にご褒美をあげたいなって思っています」 ファンからの愛称は「『ムグちゃん』って呼んでもらえるようなプロになりたいですね」とニッコリ。「親しみやすい存在になりたいですし、応援してもらえるような選手になりたいんです」と、プロとしての新しいキャラクター作りにも意欲的だ。 ◆吉田 鈴 (20)千葉県出身 4回目のプロテスト 「昨日と変わらず嬉しい気持ちは変わらないんですけど、嬉しすぎて眠れませんでした」 合格から一夜明け吉田鈴はプロテスト合格の喜びに、まだ興奮さめやらぬ様子だった。合格直後はお祝いの連絡をくれた人たちに感謝を伝えるのに1時間ぐらいかかったという。 姉はツアー3勝、米ツアー参戦中の吉田優利。今年の『KKT杯バンテリンレディス』、『ブリヂストンレディスオープン』でローアマを獲得した注目選手だ。姉の知名度もあり、周囲に期待されながらも昨年は2次予選で涙をのんだ。今回は1日目に7オーバーで90位と大きく出遅れたが、集中力を切らさずに合格を勝ち取った。 今後は「プロになってから3年以内が大事だと思う」と、プロとして最初の数年間を勝負の時期と捉えている。「アスリートは短命ですし、20代はすぐに過ぎちゃうと思うので」と、限られた時間を意識しながら「ルーキーイヤーから優勝を狙う気持ちでいきたい」と力強く語った。アマチュア時代から経験した試合も多く、その経験を活かして早期に結果を出したいと考えている。 彼女の視線はすでに未来へ向いている。「プロテストを通じて、逆にもっと頑張らなきゃと思いました。自分の弱点が見えたので、もっともっと頑張ります」と、喜びだけでなく課題意識を持っている吉田。次の新人戦では「目標は優勝です!」と力強く宣言した。 そして最終的な目標は、オリンピックやアメリカツアーも視野に入れている。「プロテストに受かったので現実になった。しっかり道筋を決めて、そこを目指したい」。日本国内にとどまらず、世界へと視野を広げ、ゴルファーとしての夢を描いているようだ。 少しリラックスした質問では「(姉もやったことがある父親が経営する居酒屋の)1日店員をやってみたい?」と聞かれると、「やってほしいと言われればやるかもしれないです(笑)。そういうの好きです」と冗談交じりに答え、明るい笑顔を見せてくれた。 来年は姉妹で活躍する姿が今から楽しみだ。 ◆青木 香奈子 (24)宮崎県出身 6回目のプロテスト 昨年まで地元宮崎県のフェニックスカントリーで5年間、研修生としてキャディ業務をしながらプロテストに挑み続けた苦労人。一時はプロになることを諦めた時期もあったが単身、東京に出て再挑戦。本人の言葉どおり、見事に“滑り込み”で合格した。 合格の夜は興奮が収まらなかったという青木香奈子。「もうアドレナリンが出まくってて全然眠れなかったです!」と笑顔で振り返る。「やっぱり緑がラッキーカラーなんです。だから最終日も緑のウェアにしました」と、幸運のカラーを身にまとって試合に挑んだという。 プロテスト中も体調管理は万全だった。「睡眠だけは(ドジャース)大谷さんを見習ってます。 9時半にはしっかり寝てます」と、体調管理に余念がない。寝具にもこだわりがあり、「ニトリの硬い低めの枕が大好きなんです! ホテルのふわふわな枕が苦手で、自分の枕だとすぐ眠れるんですよ」と、リラックスするためにマイ枕を遠征へ持参したことも明かしてくれた。毎日サウナに入ってのリフレッシュも合格への秘訣だったようだ。 6回目の挑戦での合格。改めて挑戦し続けることの大切さを語る。 「もう6年間かかって、長かったなって。キャディーも5年近くやってたんですけど、去年の11月に思い切ってフェニックスを離れて……それがやっぱり良かったなって感じます。でも、合格した子たちを見てると、みんなすごくて『私、ここにいて大丈夫かな』って正直不安です。もっともっと自分を磨かないとって思います」 プロゴルファーとしての姿勢については、「宮里藍さんがチーアップ(CHEER UP)する姿を YouTubeで見てから、ボギーやダボが出てもいつも顔を上げるように心がけてます」と憧れの存在を意識。「藍さんみたいに愛されるゴルファーになりたい」と青木。彼女の明るく前向きな姿勢が、多くのファンから支持される理由かもしれない。 最終プロテストという緊張感のあるコースでも笑顔だった青木。「カメラを向けられるとピースしちゃうんですよ。スタートホールでカメラを向けられたときにピースしたら、和久井麻由ちゃんに『ここはマイナビ(注)じゃないよ』って(笑)」と、持ち前の明るさとサービス精神を見せ場を和ませた。 少し現実的な夢も持っている。「お金を貯めて、ポルシェのマカンかアウディのQ5に乗るのが目標なんです! プロになったらこの車に絶対乗るって決めてます」と笑顔で話す。6年間の挑戦の末に手にしたプロの座を誇りにしながら、貯金して車購入という現実的な目標にも意欲的な青木プロ。ファンや周囲の応援を力に、彼女のプロとしての成長に期待だ。 (注)『マイナビネクストヒロイン』…若手女子育成のための大会。出場枠の一部はファン投票で決まるものもあるため、自己アピールは大切な要素となっている。 取材・文・写真:戸加里真司
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