1990年代、クルマの“珍”技術3選
(2)アンフィニ「MS-8」:インパネシフト
自動車の歴史本のなかでも人気あるカテゴリーは、ストリームラインとエアロデザインだ。1930年代から欧米ではこれらのデザインの研究がさかんで、このころ手がけられたクルマには、たいへん流麗な美しさをもったデザインが少なくない。 それを自動車文化の熟成といっていいか。そこはよくわからないけれど、1992年に登場したアンフィニMS-8は、とりわけインテリアが注目だ。それまでと完全に一線を画した、1930年代にも考案されていなかったエアロデザイン的造形なのだ。 当時話題になったのが、マツダがそこにそなえた4段オートマチック変速機用のシフター。採用の理由は、センターコンソールを廃止することで有機的な3次元デザインのダッシュボードの造形美を際立たせるところにあるのでは、と当時の私は思っていた。 1997年にアンドリュー・ニコル監督のSF映画『ガタカ』が、封切られて、そこに出てくるクルマの数かずが好事家のあいだで大きな話題を呼んだ際、ダッシュボードだけでMS-8も登場する価値がある、と強く思ったものだ。 1989年から1991年にかけて、ユーノス、オートザム、アンフィニとセールスネットワークの拡充していたマツダ。MS-8は、2610mmのホイールベースに、4695mmの4ドアノッチバックボディを載せていた。 そもそもマツダ「ペルソナ」の後継として企画されただけあって、ダッシュボードからドアトリムそしてリヤシートにいたるまで、ひとつのかたまり感を強調した内装デザインを継承し発展させていた。フロントシートもぴったりくっついたベンチ型。よりテーマを徹底させたことで、SF的な雰囲気すらかもしだしていた。 コラムシフトは、当時、(クルマ好きにとってデザインアイコンだった)シトロエン「DS」みたい! と、感じられ、すこし“珍デザイン”的だった。あの頃は、でかいシフトレバーがパワーの象徴であっただけに、多少の違和感があった。 けれども、メルセデス・ベンツだって、2005年以来、ずっとコラムシフト。そういう事実を踏まえても、MS-8のインテリアデザイン、復活してほしい。外観デザインは凡庸だったので、そこは変えていただきたいけれど。