松山ケンイチ、滝藤賢一、沢村一樹 『虎に翼』異なるアプローチで寅子の背を押す上司たち
『虎に翼』(NHK総合)では、法曹の世界へと飛び込んだ主人公・寅子(伊藤沙莉)があらゆる困難を乗り越えていく姿が魅力的な作品だが、寅子を取り巻く個性豊かな登場人物たちもまた魅力的だ。特に、戦後の日本国憲法に希望を見出した寅子が再び飛び込んだ法曹の世界で出会う多岐川(滝藤賢一)やライアンこと久藤(沢村一樹)、そして桂場(松山ケンイチ)の3人は、その人物像が全く異なるのが面白い。 【写真】よね、轟、梅子も “轟法律事務所”のオフショット
情熱的なチョビひげおじさん、多岐川(滝藤賢一)
多岐川は初登場時からインパクトが強かった。だが、多岐川が信念を貫き、誰よりも家裁への情熱に満ちた人物であることは、回を追うごとにはっきりと表れていく。多岐川を演じている滝藤の演技はコミカルさと熱血漢の匙加減が絶妙だ。“かなりの変わり者”であるのは確かだが、寅子や周囲の心を動かしていく彼の情熱には説得力がある。 第55話で汐見(平埜生成)の口から多岐川の過去が語られた時、滝藤の演技に心揺さぶられた。多岐川は、自身が死刑判決を下した死刑囚の処刑を見たことをきっかけに、凶悪事件を受け持たなくなり、彼はそのことを“逃げた”と評して自分を責め続けていた。そんな多岐川に転機が訪れる。朝鮮から引き揚げて上野の駅に降り立った時、多岐川は戦災孤児たちの姿を目にする。まだチョビヒゲ姿ではない多岐川は、子供たちのために残りの人生を全てささげようと涙しながら決意した。滝藤が見せた目の表情は心にグッとくるものがある。
寅子の採用に力を貸した、フレンドリーな久藤(沢村一樹)
「ライアン」こと久藤頼安は第46話で初めて登場した。久藤を演じている沢村の爽やかな笑顔や物腰柔らかな佇まい、落ち着いた口ぶりは、人物紹介にある“人当たりがよく常にフレンドリー”な久藤の人物像を体現している。とはいえ、寅子を演じる伊藤の演技もあいまって、見る人によってはその言動がどこかうさんくさくも感じられるというのが面白い。 桂場に熱弁を振るう寅子に興味を抱き、採用に力を貸した人物であるが、困難に直面する寅子への対応は、多岐川、桂場に比べてもっとも冷静だ。寅子自身が課題に気づき、行動を起こすことを促すその言動を見ていると、実は寅子の上司の中でも最も厳しい人物なのではないだろうか。どのような場面においても感情の波を一切立てない久藤は、寅子に「何で?」「どうしてそんなに人ごとなの?」と鋭く切り込む。普段通りの笑顔と口調なのだが、それがかえって胸を突く。久藤の口から出た「君、思ったより謙虚なんだね」という言葉の重みもなかなかのものだった。