「賃上げ」とは 基礎解説や2024年の予測まとめ
賃上げの動向
2023年は「賃上げ元年」と表現されるほど、賃上げ気運が高まりました。過去の春闘の動向を踏まえると、2024年はどのような状況が予想されるのでしょうか。 ■春闘の動向 春闘とは、「春季生活闘争」の略称です。多くの日本企業では会計年度に合わせて2月~3月頃に翌年度の賃上げや労働条件を交渉する慣習がありますが、日本の労働組合にとって、1年で最も大きなできごとといえます。60年以上の歴史があり、景気や日本の社会環境に合わせて春闘で行われる賃上げ要求も変化してきました。 春闘で高い賃上げ要求が行われたのは、バブル景気により経済が好調だった、1980年代後半から1990年代前半です。定期昇給込みで5%~9%と、高い賃上げ要求がなされました。1990年代後半にバブルが崩壊すると、デフレが長期化する中で具体的な賃上げ要求の数値を掲示しない時期が続きます。この時期には、労働者の雇用安定が重視されていました。 再び具体的な数値が掲げられるのは2014年になってからです。長引くデフレ脱却に向けて4%以上、4%程度といった賃上げ要求がなされました。2023年になってからは、物価上昇が続いたことを受け、賃上げ要求方針は5%程度に上昇。2024年は「5%以上」と、より強い要求になっており、1995年以来、およそ30年ぶりの高い水準です。
2024年の賃上げ予測
シンクタンクの多くは、2024年の賃上げを3.7%~3.85%と予測しており、全体として高い賃上げ率が実現する見通しです。 たとえば、みずほリサーチ&テクノロジーズは、新型コロナウイルス感染症が5類となったことに伴う消費者動向の回復の影響で、小売や宿泊・飲食といった個人の消費が関連する業界でも、前年より賃上げが積極化する可能性を示しています。他にも、為替円安効果で高収益となっている自動車関連業界などで、高水準の賃上げが継続する見通しを立てています。 こうした高い賃上げが実現する理由として、第一生命経済研究所は、物価高への配慮、底堅い企業業績、人手不足感の増加をあげています。ほかにもシンクタンク各社がさまざまな見解を述べていますが、組合側・経営側とも、賃上げに対して比較的前向きであるという見通しです。 ■実質賃金はどうなるか 懸念されているのは、2年連続で賃上げが実現しても、長引くインフレにより実質賃金がプラスになるとは限らない点です。厚生労働省が2024年1月に公表した速報値(2023年11月値)では、物価の変動分を反映した実質賃金は前月に比べて3%減少し、20ヵ月連続でマイナスとなっています。対して、現金給与総額は23ヵ月連続でプラスです。賃金上昇が物価上昇に追いつくかどうかが、2024年の日本経済の焦点といえるでしょう。 ■景気の下振れリスク 大和総研の2024年の日本経済見通しによれば、賃上げが経済を下支えし、インバウンドや個人消費の回復が経済の正常化を後押しして、緩やかな回復基調が続いた結果、2024年後半に実質賃金がプラス転換し、政府が「デフレ脱却」を宣言する可能性があるといいます。しかし、インフレ率が賃金上昇を上回れば、個人の消費の弱さから、大企業を中心に値下げ競争が再熱し、物価・賃金ともに伸びない「デフレ均衡」に逆戻りするリスクもあります。 とくに、アメリカの景気後退や中東・ウクライナ情勢の緊迫化などを海外経済の下振れをリスクとして挙げています。