JEITA、SDVは2035年に世界6530万台と市場予測公表 津賀一宏会長「ソフトウェアが企業の競争力を左右する時代に」
JEITA(電子情報技術産業協会)は12月19日、「電子情報産業の世界生産見通し」を発表。関連調査として実施した「注目分野に関する動向調査」におけるSDV(Software Defined Vehicle)に関する市場予測についても公表した。 【画像】自動車生産台数とSDV比率の見通し(世界) これによると、2035年の世界の新車生産台数を9790万台と予測。そのうち、SDVは6530万台となり、全体の66.7%を占めると予測した。また、SDV化の進展により、2035年における車載半導体の世界需要額は1594億ドルとなり、2025年比で185%の伸長と予測した。そのうち、SDV半導体需要額は1186億ドルになると見ている。 JEITAの津賀一宏会長(パナソニック ホールディングス会長)は、「自動車のSDV化は、モビリティ産業とデジタル技術の融合分野である。2030年頃には、世界中の自動車メーカーがSDVを本格的に導入し、市場が急速に拡大することになるだろう。その背景にあるのは、企業間連携による技術革新やプラットフォーム化の加速、日本をはじめとする各国政府の強い後押しである」と述べ、「SDVには、1万個以上の積層セラミックコンデンサ(MLCC)や、その他のチップ部品が搭載されるなど、電子部品需要の増加が期待される。これにより、ECU(電子制御ユニット)で使われるロジックICや高性能MCU/MPUだけでなく、パワー半導体やアナログICの増加も期待される」と述べた。 「電子情報産業の世界生産見通し」は、JEITAが2007年から毎年発表しているもので、それにあわせて注目分野に対する動向調査を実施。今回で15回目となる注目分野の調査で、初めてSDVをテーマに取り上げた。 同協会では、SDVにフォーカスした理由として「ADASに代表されるようなソフトウェアで実現される機能が普及し、車両の機能や性能をソフトウェアで定義し、制御するSDVへと進化している。これに伴い、車両に搭載する各種電装機器に搭載される半導体や電子部品の高性能化が求められている。また、政府が2024年5月に『モビリティDX戦略』を策定し、SDVをはじめとする自動車分野のDXにおける国際競争を勝ち抜くことに取り組んでいる。自動車の電装化に伴い、自動車業界と電子機器業界のつながりが一段と強くなり、電子情報産業がデジタルによってさまざまな課題解決に貢献し、持続可能な発展や新たな価値創造につながることを目指していくことになる」と述べている。 調査によると、先に触れたように2035年における世界新車生産台数は9790万台で、そのうちSDVは6530万台、SDV比率は66.7%になると予測した。また、日本における新車生産台数は690万台で、そのうちSDVは430万台、SDV比率は62.0%と見ている。 COVID-19の影響で減速した世界新車生産台数は回復基調にあるが、2030年をピークに一段落することを想定。その一方で、SDVは2030年以降に普及が進み、市場は急速に拡大する見通しを立てている。 また、2035年のSDVに搭載される電装機器の世界需要額は2307億ドルと見ており、2025年からの年平均成長率44.7%増と高い伸びを想定。2025年と比較すると約40倍になる。また、2025年地域別のSDV構成比率は欧米中で98%を占めるが、2035年には日本やその他アジアでも普及が進み、全体の21%をこれらの地域が占めると予想した。 これまでの自動車は、エンジンなどハードウェアの性能が競争の源泉であったが、近年では自動車の電装化により、ハンドル操作やブレーキなどの基本性能をソフトウェアが制御するようになり、今後はソフトウェアの性能が競争力を左右することになると見られている。また、通信技術の高度化により、搭載ソフトウェアがOTAを介しアップデートされるようになり、走行性能や安全機能が向上することが可能となっている。 さらに電装機器構造は一層進化し、搭載される半導体や電子部品は高性能化し、その存在感が高まっている。これに伴い、自動車のSDV化が進むというわけだ。 今回の予測では、2035年における車載半導体の世界需要額は1594億ドルとし、そのうちSDV搭載の半導体の世界需要額は1186億ドルと予測。年平均成長率は38.4%増を想定している。SDV半導体比率は74.4%となり、2025年から約26倍になると見ている。 種類別ではデイスクリートが370億ドル、アナログが269億ドルとなり、この2種類の半導体で全体の約5割を占める見通しだ。 また、車載電子部品世界需要額は171億ドルとなり、そのうちSDVに搭載される電子部品は118億ドルで、年平均成長率は同41.8%増。SDV電子部品比率は68.7%と見通した。2025年からは約33倍になると予測している。種類別では抵抗器が49億ドル、コンデンサが42億ドルとなり、この2種類で全体の約8割を占める。 SDV1台あたりの電装機器搭載金額は2035年には世界で3535ドルとなり、年平均成長率は5.9%増、日本では62万9310円となり、年平均成長率は8.2%増としている。これは世界では約1.8倍、日本で約2.2倍になる勢いだ。 調査では日系自動車メーカーと日本政府にもヒアリングした結果も公表した。 日系自動車メーカーの1社は、ICEVやHEV、PHEV、BEV、燃料電池車、水素燃料車などさまざまなエネルギーを使用し、多様なパワートレーンを国や地域の社会状況に応じて作り分ける「マルチパスウェイの戦略」を推進。これを実現するためにSDVという考え方を具現化し、大量生産や大量消費という事業からの抜本的な構造改革を進め、生産台数に重きを置く事業構造から転換し、サスティナブルな事業成長を実現するとコメントしているという。 また、別の日系自動車メーカーは、知能化や電動化時代に向けた戦略的パートナーシップとして、とくに次世代SDV向けプラットフォーム領域において、基礎的要素技術の共同研究契約を他社と締結。SDVの競争力強化に向けてAPI(Application Programming Interface)の標準化を進め、アプリケーションを開発するサードパーティがSDV領域のエコシステムに参画しやすい環境を整備する予定だとコメントしているという。 さらに、日本政府では、産学官連携で次世代技術の量産化を目指す国家戦略である「戦略的イノベーション創造プログラム」において、モビリティプラットフォームの構築に向けた議論を行なっており、SDVや自動運転の領域で日系メーカーの国際競争力を高めることを狙っている。SDVや自動運転で、米国や中国の新興・異業種が先行するなか、日本勢の巻き返しを後押しする計画だという。 JEITAの津賀会長は「2024年10月に開催したCEATECでは、日本自動車工業会が主催するジャパンモビリティショー・ビズウィークとの併催が実現し、モビリティ産業とデジタル産業とがタッグを組んだことで大きな関心が集まった。CEATECではAIが注目され、モビリティショーではSDVが注目を集めたように、ソフトウェアが企業の競争力を左右する時代に突入しつつある」と述べた。 さらに津賀会長は「30年前のAV機器はアナログで構成されており、ハードウェアオリエンテッドであったが、それがどんどんコンピュータ化した。その流れが自動車にもやってきた。だが、自動車は非常に複雑で、安心安全といった要素があり、エンタテインメント性や通信技術も必要である。コンピュータを自動車にあわせて使いこなしていくアーキテクチャーが求められており、これがSDVにつながっている。自動車用のエンタテインメントシステムを作るだけでも多くの開発工数がかかる。しかもテスト工数が多く、自動車メーカー各社ごとに対応していては『開発貧乏』に陥る。SDV化によって開発環境が効率化し、この問題も解決できる。そうした時代がやってきた」と語った。 一方で、日系自動車メーカーの再編の動きについては、「米国ではテスラが台頭し、欧州でも変化がある。そのなかで日系自動車メーカーにも動きが始まったと見ている。個社がばらばらにやるよりは、力をあわせてプラットフォーム化や標準化を進めることで生まれるメリットもある」とし、「複雑になるとコミュニケーションが大切になるが、そこまでいくと日系自動車メーカーと日本語で話ができるというメリットがある。ドイツ語では難しい付き合いやすさがある。中国の場合には、中国人による組織能力を高めていけば、日系企業でも入っていける。この点で見ても、SDVは理に適っている流れ」などと持論を述べた。
Car Watch,大河原克行
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