「大阪万博期間中のライドシェア解禁」検討も…一社独占や交通網確保に疑問の声が噴出中
大阪・関西万博開催まで10ヵ月を切った。 全国の大都市圏では、タクシー事業者が管理を行う「日本型ライドシェア」の稼働が4月から順次始まり、少しずつ街中で走るようになってきている。日本型ライドシェア導入の経緯でいうと、国交省や国会議員、タクシー事業者などが意見をぶつけ合いながら、かなり早いペースで導入まで進んでいった。タクシー不足の解消という課題解消に向けて稼働した背景があるのは、全国共通だ。 「ライドシェア一つ判断できない…」憤る吉村大阪府知事 しかし、こと大阪に関していうなら他の地域とライドシェア稼働の経緯が異なると感じる点が2つある。1つは、ライドシェア導入のプロセスに「万博開催」という事象が大きく関わっていること。もう1つは、特定事業者への府政の必要以上の肩入れだ。 吉村洋文知事は、「万博開催中に通常時の約3割増、1日最大2300台のタクシーが不足する」という考えを明かし、ライドシェアがその解決策となりうるという方針を示してきた。その内容に目を向けると、時間帯や稼働時間が制限された日本型ライドシェアとは異なり、大阪全域で24時間、車両の台数制限のない大幅な緩和を求めている。要は、万博時は大阪だけ特例での全面解禁を行うべきだ、という主張である。 大阪では去冬からすでに、万博時の旅客輸送に関する根本的な不安が聞こえてきていた。だがこれは単純に、バスの運転手を確保できていなかったことによる焦りから来るものが大きい。万博会場へのアクセスは、地下鉄中央線と主要駅からのシャトルバスが主となる試算となっている。しかし、約180人が必要とされる肝心のバス運転手が集まっていないのだ。 補助金や積極的な広告展開を見せるなど対策は講じているが、いずれも有効な手段にはなっていない。こうなると、乗車率140%とされる開催期間中の中央線では、一般客の通勤にも支障が生じる可能性が高まる。これらの状況を受けて、タクシーやバス会社代表などからは以下のような声が聞かれた。 「そもそもタクシーが2300台足りないという根拠はどこにあるのか」 「万博時のバスや他の鉄道などの旅客輸送の実数が不透明ななか、万博協会の数字に妥当性はあるのか」 「仮に2300台増加すれば、確実に会場までの道のりで交通渋滞を引き起こす」 また、市政や議会関係者からは 「バスの乗務員を集められないなか、どんな方法でライドシェアドライバーを集めるのか」 「万博協会の縦割りが顕著で、府市の職員は対応に疲弊している」 といった意見が漏れていた。 去年末には、大阪の複数のタクシー会社代表から筆者のもとに連絡があった。それは、「ライドシェアが一社独占になる恐れがある」という懸念を伝えるものだった。 吉村知事や横山英幸市長らが参加した当時の「ライドシェア有識者会議」にて、あるタクシー事業者が、業界でなぜか1社のみ会議に参加していた。その構図や発言内容があまりにもいびつだ、という疑問が同業者の中で上がったのだ。 今年3月にはメルカリが出資する「newmo」が、秋から「OSAKAモデル」のライドシェア事業へと参入することを明らかにした。その会見に参加した吉村知事は国交省批判を展開しながら、「ライドシェアひとつ首長判断でできない国が日本」等と話している。これには専門誌などの一部メディアで、「大阪府知事が一私企業を後押し?」と銘打つ社もあった。そんな発言を受けて、ある大阪のタクシー事業者の代表は筆者にこう明かした。 「万博のための交通改革に吉村知事は躍起になっている。ただし、万博に合わせてライドシェアを解禁し、車両を急増させた“万博後”の具体案を示せていない。そんな状態で舵取りを行うと、大阪の公共交通は万博後に崩壊する恐れがある。今の状態になったのも、もともとの想定が甘いと言わざるを得ない」 万博で交通の懸念があるという客観的な事実のなかで、バスのドライバーが足りない、タクシーが足りていない、公共交通のパンクの恐れがある。これの事案を解決するのは、たしかに政治の力も必要だろう。しかし、昨夏から加熱したライドシェア解禁の議論に、大阪は突然“乗っかった”という側面が非常に強い。 取材を重ねるほど、保身案としてのライドシェア推進であるとも感じてしまう。話は複雑ではなく、非常にシンプルである。何より、これだけ問題が山積みで辞退国も出ているなか、万博協会が発表した輸送計画のように一日最大22万人が来場するとは、到底思えない。さらに根本的にいうなら、来場者たちが、全面解禁が必要なほどライドシェアやタクシーという高額な移動法に頼るとも考えづらい。 こうした状況のなか、渦中のタクシー協会はどう考えているのか。大阪タクシー協会会長の坂本篤紀さん(59)は、タクシー不足が叫ばれる現状についてこう明かす。 「現在の大阪ではタクシーが足りないという状況はほとんど起きていません。主要乗り場の車両切れもなく、昨年から乗務員も1万人増加している。つまり、タクシー不足といわれた状況から大きな改善を見せています。そんななかで、昨年の数字を出して2300台タクシーが足りない、とライドシェア全面解禁を謳う府・市の姿勢には違和感しかない。そもそも2300台という数字の妥当性もありません。仮にそれだけ車両が増加された場合、タクシーもライドシェアドライバーも売上が落ち、旅客輸送から離脱者が増えるという、より悲惨な状況に陥る可能性も出てきます」 タクシー会社と同時にバス会社の経営にも携わってきた坂本さんは、「万博というイベントに合わせたバス人員の突発的な増強は、路線バスの崩壊へと繋がる」とも警鐘を鳴らす。 「多くの地方と同様に、大阪でもバス会社の経営は苦しい。倒産社もでるなど、路線バスの本数は減少している。現実的に移動に困る方も出てきているほど、これは深刻な問題です。仮に万博では好条件で大量採用に成功したとて、外や内部から人員を賄うようではその後の路線バスはどうなっていくのか。万博のためにライドシェアなどの交通改革を打ち出すなら、それらの事後案、長期的な指針を示せないと絵に描いた餅でしかないでしょう」 数々の疑念の声が叫ばれるなか、交通にも不安が重なる大阪万博。課題解決まで残された時間は、そう多くはない。 取材・文:栗田シメイ(ノンフィクションライター))
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