ファウルグラウンドでの観客の扱い スタンドでもモラルのある行動を/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く
【山崎夏生のルール教室】 【問】ワールド・シリーズ初戦では外野飛球を巡る珍プレーが2つありました。一つは左中間への飛球をスタンド最前列に居たファンがキャッチしてしまい、観衆の妨害として二塁打になったこと。またドジャースが1点を追う10回裏一死一、二塁から、大谷翔平選手の打ったフェンス際のファウルフライを捕球した左翼手が、勢い余ってそのままスタンドに飛び込んでしまったこと。アウトにはなったものの各走者には1個の進塁が与えられ二死二、三塁。次打者の申告敬遠後に逆転サヨナラ満塁本塁打が飛び出すという劇的幕切れで、もしも直前の安全進塁がなければ果たしてどうなっていたか? 解説をお願いします。 【答】仏教には「結界」という言葉があります。聖なる仏界と俗世間を隔てる境界線のことですが、実は球場にもあるのです。それがこのフェンスの内と外。過去にもこの境界線近辺で幾多のトラブルがありました。スタンドの大応援団旗が本塁打か否かという打球をフェンス際で払い落としてしまったり、スタンドに差し伸べた外野手のグラブが邪魔されてファウルフライを捕球できなかったり、逆に今回のようにフィールド内の打球をファンがグラブで捕ったり捕球の邪魔をしたり等々。お客さまは神様ですが、それはスタンド内に居ればこそ。何があろうともフィールド内の選手のプレーを妨げることは許されません。逆にスタンド内は観衆の領域ですから、選手はそこでのプレーを妨げられてもやむなし。これは公認野球規則6.01.eと定義15【原注】に明記されています。 また、その妨害行為が悪質であれば審判は観衆と言えど、退場を宣告することができますから(8.01.e.2)、十分にご注意を。ちなみにこれはネット裏から大声で投球のコースを叫んだりする行為や、あるいは選手や審判への野次や罵声にも適用されます。もう20年以上も前ですが、実際に球審の判定に不満を持ったファンが「〇〇、死ね~!」としつこく叫び続けたため退場を命じられ、警備員につまみ出された実例もあります。 このルールに関してですが、観衆が選手のプレーをアシストすることは禁じられていません。ですから捕球後に選手がスタンドに倒れ込まないように支えることは無問題。よって上記のような場合でしたら、最前列のファンが無駄な進塁をさせないこともできたわけです。危険防止の観点からも選手にとってはありがたいことですね。攻撃側からすれば余計なお世話かもしれませんが(笑)。
週刊ベースボール