千鳥MC『THEゴールデンコンビ』が「配信系バラエティは地上波より苦戦する」を覆したワケ
でも、バラエティでは、予算を上げることが必ずしも面白さに結びつかない。セットが豪華になっても、その分だけ笑いが増えるわけではない。豪華なセットで練りに練ったコントをやるよりも、簡素な舞台で芸人がただしゃべっているだけの方が笑えることもある。大きなお金をかけられるという環境が、必ずしもプラスに働くとは限らないところに、配信バラエティの難しさがある。 10月31日にAmazonプライム・ビデオで『最強新コンビ決定戦THEゴールデンコンビ』が配信開始された。これは、元日本テレビの橋本和明氏、元テレビ朝日の芦田太郎氏の2人が企画・演出を手がけている新機軸のバラエティコンテンツだ。 MCを務めるのは千鳥。令和ロマンの高比良くるま、霜降り明星のせいやら有名芸人たちが1日限りの即席コンビを組んで、さまざまなシチュエーションで即興のショートコントを披露する。最後まで勝ち残ったコンビには賞金1000万円が与えられる。 見ていて思ったのは、配信バラエティがどうあるべきかに関して実によく考えられたコンテンツだな、ということだった。 このコンテンツでは豪華なメンバーを集めている上に、大がかりなコントのセットがせり上がってくる舞台装置など、いかにもお金がかかっていそうに見える。 でも、豪華な感じがするのは主にそういう美術まわりの部分だけで、やっていることの中身そのものは、地上波の特番でやっていてもおかしくないような、わかりやすくポップなものだ。 パッケージとしての派手さや豪華さは保ちつつ、それが中身の「お笑い」そのものを邪魔しない絶妙なラインを突いている。そこに制作者の信念を感じた。 この手の大喜利バトル的な企画は、出場者が勝負に対して真剣になればなるほど、全体のトーンが単調になってしまう恐れがあるのだが、そこに彩りを加えていたのがネプチューンの堀内健とニューヨークの屋敷裕政のコンビだった。 堀内は持ち前の自由奔放なスタイルでボケ続けて、ツッコミ役の屋敷をさんざん振り回す。屋敷もやられっぱなしでは終わらず、ボロボロになりながらも土俵際で力強くツッコミを返していく。この2人のやり取りには、単なる勝負を超えた人間味の面白さがあった。そういう意味でも、年末年始の地上波の大型バラエティ特番のような、ポップで密度の濃いお笑いを存分に楽しんだ、という満足感があった。 結局のところ、見る側は「メディアが地上波なのか、配信なのか」などということはあまり意識していない。単に面白いものを見たいだけだ。むしろ、作り手が大規模な配信のコンテンツだからと肩ひじを張って、要らない工夫をしたりすると、かえってそこが邪魔だと思われたりもしてしまう。 『ゴールデンコンビ』は、ヒット番組を手がける一流の制作スタッフがかかわっているだけあって、そのあたりのことが十分に考え抜かれている感じがした。今後の配信バラエティのあり方を考える上で、エポックメイキングな作品であることは間違いない。(お笑い評論家・ラリー遠田)
ラリー遠田