“究極のエンジン”誕生か マツダの「SKYACTIV X」はどうスゴい?
機構的に単純で低コストも実現か
システムそのものは、このようにガソリンエンジンやディーゼルエンジンの問題点を把握していないと分かりにくいが、構造そのものはとても単純に見える。 マツダの資料を見る限り「高応答エアー供給機」なる部品が追加されている。これは普通に考えればエアポンプだ。コストも知れている。何が言いたいかと言えば、このSKYACTIV Xは冒頭に書いた性能を達成しながら、コストが安いはずだ。理論こそ難しいが、機構的に高価な部品は何もない。既存技術の延長で行った改革なのだ。 原稿はここで終わるつもりだったのだが、どうも伝わった気がしない。最後に別の角度からもう少し蛇足を書いておこう。 長い試験管を想像して欲しい。これに混合気を詰める。開口部から火を付けると混合気は燃焼を始める。燃焼したガスは膨張して試験管の先にある混合気を圧縮する。すると燃焼圧力は加速度的に高まって、さらに先の混合気を圧縮する。こうして循環的に燃焼ガスが未燃焼ガスを圧縮して行ってしまう話を、筆者はかつてノッキングの説明に使っていた。ノッキングとは、圧縮スパイラルで一線を越えて、制御不能になり、エンジンが壊れかねないほど圧力が高まってしまうことを言う。 SPCCIでプラグを制御因子として圧縮着火を実現したマツダの技術は、基本これと同じ仕組みで「意図的にノッキングを起こしている」とも言える。語義的には制御できるものは燃焼。制御できないものはノッキングと言うことになっているので、変な言い方なのだが、エンジンを壊しかねないほどの圧力になるノッキング領域の一部をマツダは手懐けて制御下に置いたのである。 風力発電で言えば台風のエネルギーを使いこなすようなものだし、潮力発電なら津波のエネルギーを使いこなすようなものだ。エネルギー効率が高まるのは当然と言えば当然だろう。
-------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある