“究極のエンジン”誕生か マツダの「SKYACTIV X」はどうスゴい?
ガソリンとディーゼルエンジン、それぞれの課題
普通のガソリンエンジンでは、混合気を圧縮して、そこに点火プラグで火を付ける。火はプラグの周りから伝播し、燃焼室の隅まで延焼して一回の燃焼を終える。その火炎伝播は極めて高速で行われているので一般的には全部が同時に燃えているように感じるかもしれないが、メカニズムとしては紙の端に火を付けて燃え広がるのと同じである。この方法だと、混合気が燃えやすい空気と燃料の比率(14.7:1)でないと、上手く燃え広がらない。燃費向上のために燃料をケチると、紙の例えで言えば、途中で湿っている所があって端まで燃えない内に火が消えてしまうのだ。燃え切らないと排ガスがめちゃくちゃになる。 一方、ディーゼルエンジンはどうなっているかと言えば、これは初めに空気だけを吸い込んで圧縮する。気体は圧縮すると温度が上がる。筆者が過去に見た実験では試験管に綿くずを入れて、空気入れで圧縮すると、温度上昇で綿くずが自己発火して瞬時に燃えた。ちょっと暖まるとか、熱くなるとかそういうレベルではなく、気体の圧縮は燃料に自己着火させるのに十分なほどの温度に簡単に到達するのだ。高温の空気が充満した燃焼室に、点火したいタイミングで燃料を直接噴射すると、燃料は噴射された側から燃え始める。 燃料は高温の空気に触れた瞬間から燃え始めるので、火炎放射器のような燃え方になる。最新のディーゼルエンジンの噴射ノズルが「多孔タイプ」になっているのは、燃焼を出来るだけ分散させたいからだ。何故そうなるかと言えば、燃焼室全体で見たときに噴射された燃料の周りでは燃料過多で酸素不足になり、噴射流から離れた場所では逆に燃料が不足して酸素が余る。これが排ガスの発生源になるのだ。排気ガス中の有毒成分で、問題になる物質は主に4つ。一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、そして煤(すす=PM)だ。 酸素が十分にあればCOは二酸化炭素(CO2)になるし、HCは水(H2O)とCO2になる。大気中の窒素(N2)は本来安定しており、簡単に酸化しないのだが、酸素は本来パートナーになるべき炭素や水素がない場所で大きな熱エネルギーを加えられるとNと化合してNOxになってしまう。 マツダの『SKYACTIV D』では、ディーゼルとしては異例の低圧縮比にすることで、燃焼温度を下げ、NOxの発生を抑制しているのでNOxが出ない。もちろん利害得失はあって、圧縮比が低い分、トルクが出ない。パワフルなエンジンが大好きな欧州勢は、圧縮を下げないで何とかしようとしたから、NOxが消せず、それがディーゼルエンジンでの不正に繋がった。大気汚染が問題になり、ディーゼルが都市部で禁止されるようになった理由は、欧州メーカーがまじめに排ガス対策をやらなかった自業自得である。