「全米が大谷を絶賛」報道への違和感…「自由の国だが、差別と無縁ではない」アメリカの実態
能天気な日本メディア
しかもこの街は、アメリカのネオナチを創設したジョージ・リンカーン・ロックウェル(1918-1967)という人物の生誕地なのである。毎年彼の誕生日には、白人至上主義を掲げるロックウェルを信奉する白人によるパレードと式典も行われた。 こんな街では、当時すでに「アメリカ人扱い」されている黒人やヒスパニックでさえ居心地の悪さを時々感じていた。ましてや日本人を含めたアジア人たるや! である。このような白人至上主義の保守的な街は全米各地に存在し、NYやLAといった大都市はさておき、地方のアメリカ人が決して日本人に好意を抱いているわけではないことは知っておいた方がいい。 さらに、黒人やヒスパニックも、自分よりも下の立場の人間を見つけたいとの気持ちは感じられた。人は誰しも差別をしたいもの。被差別民は自分が差別できる人間を見つけたいとも考える。そういった意味で、大谷をめぐる「絶賛報道」が、日本人全体の絶賛に繋がっていると思うのは現地での気のゆるみに繋がる。大谷を絶賛するスタジアムを訪れる一般人等の声は、単に大谷のファンからのものか、日本から訪れた取材陣に対するリップサービスでしかないのである。 それを嬉々として「全米が大谷に注目」とやる日本のメディアは能天気としか言いようがない。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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