カロリー削れば太らないと頑張る人を裏切る真実 エネルギーが過剰だから体脂肪が蓄積するのではない
車の通行が左側か右側かでさえ統一されていないこの世界で、世界中の人が一斉に食事量を増やし運動量を減らして太ろうとしたとでも? これでは“被害者非難”を繰り返すだけだ。アドバイスを与えた側を「アドバイスが悪い」と非難するのではなく、アドバイスを受けた側に「アドバイスはいいのだから、それに従わないのが悪い」と責任を転嫁しているだけである。 何ら科学的根拠がないのにカロリー制限法には問題がないと宣言することで、医者や栄養学者たちは非難の矛先が自分たちに向かないようにしたのだ。こうなったのは自分たちの責任ではない。あなたの責任なのだ、と。アドバイスは間違っていない。それにあなたが従わないだけなのだ、と。
彼らがこのゲームを好むのも当然だ。これまで自分たちが述べてきた肥満に関する高尚な論理が間違いだったと認めるのは、心理的に難しいだろう。 だが、カロリー制限法がどのくらい有効かといえば、「頭の禿げた人に髪をとかせと言うのに等しい」ようなエビデンスがいくつもある。 ■7年以上カロリーを厳しく削って減った体重は? これまで行われた研究のなかで最も大規模で重要な栄養学研究といえば「女性の健康イニシアチブ」だ。これは約5万人の女性を対象に行われたランダム化試験で、低脂質、低カロリーの食事療法が減量に効果があるかどうかを確かめるものだった。
減量させるのが目的ではないものの、一方の被験者グループの女性には一日に摂るカロリーを342キロカロリー減らし、運動量を10%増やすよう、徹底的なカウンセリングが行われた。カロリー計算によると、1年でおよそ15キロ減るはずだ。 1997年時点の結果は惨憺たるものだった。被験者は指示をよく守り、7年以上もカロリー計算を続けていたにもかかわらず、体重はまったく減っていなかったのだ。ほんの500グラムさえも。
この結果は衝撃的で、「カロリーの摂りすぎが肥満のもとだ」という理論を厳しく批判するものとなった。カロリーを減らしても、体重は減らなかったのだ。 とるべき道はふたつにひとつだ。お金のかかる研究を行ってやっと得られた科学的なエビデンスを信じて、確実で正しい肥満の理論を導き出すか。それとも、科学を無視して、従来の考え方や偏見を信じつづける道を選ぶか。 後者を選ぶのであれば、何の苦労もないし想像力が試されることもない。かくして、この画期的な研究の結果はほぼ忘れ去られ、栄養学の歴史においては取るに足らないものとされた。それ以降、私たちは、肥満と2型糖尿病の患者が爆発的に増えるという報いを受けてきたのである。