ニューヨークの地下鉄が「24時間運行」を実現できているのはなぜ? 午前3時頃から通勤客が集まり早朝5時には車内が混雑
鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第25回は「地下鉄の24時間運行」について。 【図解】軌道が4本ある複々線、「24時間運行」を実現させるNYの地下鉄の駅の構造。早朝5時でも混雑する地下鉄の車内
* * * 今年の10月27日、アメリカのニューヨークの地下鉄が開業120周年を迎えました。開業は1904年なので、日本最初の地下鉄(現在の東京メトロ銀座線浅草―上野間・1927年開業)よりも23年早く営業運転を開始したことになります。 ニューヨークでは、世界で唯一、地下鉄の24時間運行を通年で実施しています。つまり、開業以来、工事やテロ、コロナ禍による運休を除き、毎日昼夜問わず列車が走り続けているのです。 なぜそのようなことができるのか。今回はその謎を探ってみましょう。
地下鉄の24時間運行ができる理由
ニューヨークの地下鉄で24時間運行を通年で実施できる秘密は、線路の構造にあります。つまり軌道(列車の通り道)が3本または4本の区間があり、深夜に運休にする軌道を切り替えることで、列車を止めずにすべての軌道のメンテナンスをできるようにしているのです。 そのしくみを、ニューヨークの中心地とされるタイムズ・スクエアにある駅(BMTブロードウェイ線のタイムズ・スクエア42丁目駅)を例にして説明します。この駅では、軌道が4本ある複々線となっており、それらに面した2つのホームがあります。
列車が走る軌道は、時間帯によって変わります。日中は、4本の軌道のうち、2本に各駅に停車する普通列車(Local)、残り2本に停車駅が少ない急行列車(Express)を走らせます。いっぽう深夜は、2本の軌道で普通列車を走らせ、残り2本を運休にしてメンテナンスを行います。つまり、深夜に運休にする軌道をその日ごとに変えることで、列車を止めずに4本すべてのメンテナンスを行っているのです。 軌道が3本の区間では、深夜に2本の軌道で列車を走らせ、残り1本を運休にしています。このため、メンテナンスのために深夜に列車が駅を通過することもあります。 なお、海外の地下鉄では、線路のメンテナンスや工事のために一部の駅の営業をやめる、もしくは一部区間を運休にすることがよくあります。そのほうがメンテナンスや工事を効率よく進めることができ、合理的だからです。 いっぽう日本の地下鉄では、基本的に営業時間に駅の休止や区間の運休をすることはありません。大規模なトンネル改造工事を、列車の運行を続行しながら実施した例もあります。この国では、鉄道が担う社会的責任が大きく、海外のような合理的な考え方がなじまないからです。