【ホンダと経営統合へ】業績不振で苦しむ日産自動車、グローバル競争力強化で立て直しを目指す この計画でBYD、小米集団ら中国勢に立ち向かえるのか
スマホメーカーから自動車産業に参入した小米集団の躍進
BYDは時間をかけて新エネルギー自動車事業を発展させたが、それとは対照的なのが小米集団(シャオミ)だ。2010年に設立されたスマホーメーカー大手の同社が自動車産業に参入すると宣言したのは2021年である。 その経緯を振り返ると、同年1月に中国軍との関連が疑われ米国から投資禁止企業のリストに載ることになった。雷軍会長は今後、禁止事項が追加され、同業他社である華為技術(ファーウェイ)と同様、経営危機を招くのではないかといった強い危機感を持ったという(ただし、2021年5月には投資禁止リストから除外)。それから70日あまり、85か所、200人以上から意見を聞いて回ったところ、EVの生産においては、米国からの阻害要因はないとわかり、すぐに研究チームを立ち上げ、半年後には1000人以上の専門家集団を集め、自動車生産に乗り出したそうだ。 とはいえ、電気自動車はスマホの組み立てのようにはいかず、電池開発、自動運転技術など、キーとなる技術は独自に開発する必要があると判断、研究開発には惜しみなく資金を投入した。2024年には1000人以上の高い専門性を持つ技術者を含め7000人余りの人材を集めて最先端の研究開発部門を作り上げ、サプライヤーとの提携を通して高い品質の部品を安定供給してもらえる体制を確保した。 こうしたスピーディーで思い切った行動があったからこそ、3月28日に初となるEV(SU7)を発売、その後わずか半年足らずの7-9月期のEV販売台数で日産、トヨタ、ホンダを上回る量を確保できたのであろう。 小米集団は、所得水準が比較的高く、流行に敏感な若者たちを主要ターゲットとしており、スマホのほか多彩な小米ブランド電気製品を販売している。かつてのソニーや、現在のアップルのような高いブランド価値を創造し、その価値を様々な商品に乗せて商売しようと考えている。
エンジン車市場を破壊して新たな市場に作り替え
少し、変わったところを攻めているのは広州汽車集団だ。子会社を通じて空飛ぶ自動車の開発を積極的に進めている。蔚来集団、長安汽車などもこの分野への研究開発投資に力を入れている。 中国では多彩な企業が全力でエンジン車市場を破壊し、新エネルギー自動車、完全自動運転技術を搭載したスマートEV、或いは低空経済まで見据えた“移動手段に使われるスマート電気製品”市場に作り替えようとしている。 もし、小米集団の雷軍会長や、蔚来集団の李斌会長が日産の社長であったら、この危機にどう対処するだろうか。電池、自動運転、商品開発など一部の重要部門と、一部の先端製造部門だけを厳選して残し、過剰で時代遅れとなったエンジンを含むその他の製造部門はすべてリストラし、その上で新たに最適なサプライチェーンを構築しようとするのではなかろうか。さらに、世界中から数千万円クラスの一流の研究者、技術者を千人単位で雇い入れ、全力で集中的にコアとなる技術、ブランド力強化を図るのではなかろうか。 日産自動車はホンダとの経営統合によって、当面の財務問題は解決するかもしれない。しかし、本業をどう立て直すかという点では確かな解決策は見えてこない。 文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。
【関連記事】
- 【自動車業界再編を図解】ホンダ&日産の「EV連合」に三菱自動車が参画、トヨタグループと2大勢力時代へ【全文一気読み】
- 《ホンダと経営統合へ》自力での再建が困難になった日産自動車の深刻な経営状況 かつて経営コンサルを務めた大前研一氏が「もし私が社長を頼まれても、絶対に引き受けない」と語る理由
- 《本当に対等な関係が築けるのか》ホンダと日産が経営統合へ、決断を急がせた「鴻海の思惑」 業務提携時から浮上していた懸念
- ヤマトHD業績悪化の要因はAmazonとの取引か、物流2024年問題か? 元経営トップを連続直撃「上期はいつもダメですから」「社員を守ろうとしているのでは」
- 「5分あれば余裕で装着完了」話題の布製タイヤチェーン「イッセ・スノーソックス」の実力を検証 従来のチェーンとは異なる“手軽な装着性”と“収納性の良さ”を実感