「のんびり猫カフェでも」元WBA王者の内山高志の涙無き引退発表の理由
内山は、日本歴代3位となる11度防衛の中、記憶に残る試合、ベストバウトとして4試合を挙げた。 タイトルを奪取したサルガド戦と、日本人対決となった2011年1月の三浦隆司戦の8回終了後のTKO勝利、右手の手術後の同年12月に暫定王者のホルヘ・ソリス(メキシコ)と戦った統一戦での11回KO勝利、スーパー王座に認定された後の2015年5月の東洋太平洋同級王者で7位のジョムトーン・チュワタナ(タイ)と対戦の4試合。この試合は、右ストレート一発で2回KO勝ちを収めてV10に成功している。 「最初にタイトルを取ったサルガド戦は一番嬉しかった。三浦君との試合も不完全な中でやって勝てたことが自信になった。手術をしたけれど、また右手が痛くて、思い切り打つと一発でまた痛めるんじゃないかという恐怖がある中で、ソリスに勝った試合もね。肘が曲がらない状況の中で、もう無理だと思い戦った10度目の防衛戦のジョムトーン戦も、プレッシャーとの戦いだった。そんな状況であっても圧倒的に勝たないと笑われると思って戦った」 KOダイナマイトの代償は、拳や肘の故障となって内山を苦しめたが、KOへのこだわりはあった。 「いつも試合前には、KOは意識してないと言っていたが、正直、KOしないとおもしろくない(笑)。KOすることだけを考えて練習からやっていた。少しでもお客さんが面白い試合ができたと思う」 気になる今後については、「ボクシングと同じくらいに熱く打ち込めるものを探したい」という。 それでも、やはりボクシングからは離れられない。 「ボクシングが好きなので、教えて欲しいと言われれば、教えていきたいし、のちのちは、ジムもやっていきたい」という。その一方で、「のんびりと猫カフェでもやりたい。のちのちに。違う仕事で生活ができるようにでもなれば」と、最強王者からはイメージにし辛い第二の人生プランも披露した。 内山は自らのボクシング美学を守り続けた。その美学を維持するためには、想像を絶するような努力が必要になる。彼が引退会見で涙しなかった理由は、試合の裏側にある苦しさをやっと卒業できる解放感であり胸を張ってやり切った生き様に対する達成感でなかったか。 筆者が、忘れられないのは3.11の東日本大震災を受けた後のチャリティマッチで、後楽園の正面席の通路階段にリング下から最上階まで長い列が生まれ、その全員に丁寧にサインをした内山の姿である。リング上のファイティングスタイルだけでなく、人格の伴った本物のチャンピオンとは、この人だと思った。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)