被災地取材を5年40回超 武蔵大の松本ゼミ
東日本大震災後、被災地は数多くの大学の研究者、研究グループの調査現場ともなってきました。武蔵大学(東京)の松本恭幸教授(メディアコミュニケーション論)のゼミもその一つ。震災と地域メディアの関係をテーマに5年連続、40回を超える取材を重ねてきました。毎年、恒例のようになった取材に同行しながら、丸5年に及ぶ活動を振り返ってもらいました。
2016年3月27日午後、JR仙台駅東口にある仙台市生涯学習センター5階の会議室。一行は、動画の撮影やコンテンツ制作を楽しんでいる市民グループ「映像カフェ」(米本正広代表、15人)のメンバーにインタビューしていました。 震災後、被災地では数多くの地域メディアが生まれ、既存のマスメディアにはカバーしきれない身近な情報を自ら取材し、提供してきました。地域メディアが提供してきた多くの情報は、同じ被災地に暮らす人々ならではの感覚にあふれていました。しかし震災から丸5年が過ぎて事情は一変、自治体の長が「放送局長」になった臨時災害FM局や仮設住宅に住む人々のために活動してきたメディアの中には、震災から5年が過ぎて、その役割を終えたり、活動の形を大きく変えたりする例が出ています。
「映像カフェ」は東北大のメディア研究者らの協力を得て、震災前から続いている自主的な市民グループです。メンバーの動画作品を互いに評価し合いながら、撮影や編集の技術を少しずつ習得してきました。学生たちのインタビューは「映像カフェ」設立の経緯や運営に関するものが多く、メンバーが「映像カフェ」に参加する理由を一人ひとりから引き出していました。 松本ゼミの取り組みは、学内に立ち上げた「学生による被災地支援のための市民メディアプロジェクト」の一環です。プロジェクトとしての調査は震災後、43回に及び、学生が自分の論文のために個別に被災地を訪問している例も含めると被災地訪問は50回に達します。 プロジェクトに参加する学生たちは、大学で学ぶ社会調査や映像を中心とするメディア表現の知識と技術を生かしながら、被災地で活動する数多くの地域メディアを取材してきました。プロジェクトのメンバーの活動を常に他のメディア活動と連携させている点が特徴的です。 学生たちの取材の成果は、学生自身が独自コンテンツとして編集し、ケーブルテレビなどの地域メディアを通じて発信します。震災の翌年には、調査活動に参加した学生が話し手になる「トークイベント」をキャンパス内で実施。2013年からは場所を学外に移して、一般の市民も参加できるようにしているそうです。 今回の調査には松本ゼミのOBも参加しており「被災地か東京かにかかわらず、これからの時代を作る立場にある世代が、今後、どんなことを考え、どう振る舞うかが大事」「30回以上、通いました。いわき市でフリースペースを開き、独自にウェブマガジンを発刊している人など、被災地では魅力的な人たちに数多く出会えました」などと感想を述べていました。 5年を経過して「プロジェクト」はいったん締めくくりを迎えますが、松本さんは「今、被災地で起きていること、たとえば中心市街地の空洞化、それに伴う人の流出は他の地域でも起きています。『311』によって、被災地では、そうした問題がより急速に進行したと思われます。同じことは日本の他の地域でも起きるはず。5年間、被災地に通ってきた成果を生かしながら、沖縄、北海道の夕張、芦別など、日本の近代化のなかで、疲弊してきた地域を学生と一緒に見ていきたい」と話しています。 (メディアプロジェクト仙台:佐藤和文)