新出生前診断、徳島県内で増加 新指針で認定施設増え35歳未満も容認 命の大切さなど説明がより重要に
徳大病院産科婦人科・加地剛准教授
妊婦の血液でダウン症などの胎児の染色体異常を調べる新出生前診断(NIPT)の受検数が、徳島県内でも伸びている。日本医学会が2022年に新指針を示し、NIPTを受けられる認定施設を大幅に増やすとともに、35歳未満の受検を容認したためだ。NIPTを巡っては、人工妊娠中絶による命の選別を助長するとの指摘があり、県内の認定施設である徳島大学病院の医師は受検前後のカウンセリングの重要性を強調する。 障害児と住民の交流深めたい 徳島市国府町の女性が開催し続けるマルシェ 【とくしまスケッチ帳】 「ダウン症の発症率は母体の年齢が上がるほど高くなる。しかし、若くてもゼロではなく、不安を持つ人はいる。35歳未満でも不安感が強ければNIPTを受けられるようになったことで、徳島でも受検数が増えている」。22年の新指針運用後の状況をそう説明するのは、徳島大学病院産科婦人科の加地剛准教授。同病院でのNIPTの実施責任者だ。 日本医学会が新指針を策定したのは、受検希望者が美容外科などの無認定施設に流れるのを防ぐためだった。無認定施設では年齢制限を設けなかったり、低価格だったりするため利用が急増。一方で、カウンセリングを行わずに結果だけを通知することから妊婦が混乱する問題が起きていた。 全国で108カ所だった認定施設は新指針運用後、基幹施設169カ所、連携施設204カ所の計373カ所となり、24年4月1日時点では計502カ所まで増えた。県内では、21年までは徳島大学病院だけだったが、現在は基幹施設が同病院、連携施設が民間3病院(うち1病院は休止中)となっている。 加地准教授によると、県内の受検数は、導入初年度の13年度は126件。この後、16年度まで120件前後で推移した。17年度から増加傾向となり、20年度は162件、21年度は159件だった。新指針運用初年度の22年度は211件。さらに23年度は258件とNIPTの導入初年度に比べて倍増し、新指針の運用前年度との比較では1・6倍と伸びが顕著だ。 これに対し、県内の無認定施設での受検状況はどうなのか。加地准教授は「無認定施設はアンダーグラウンド(地下)なので分からない」とした上で、「徳島では無認定施設はほとんどなく、都会のような(妊婦が混乱する)例は少ないだろう」とみる。ただ、「NIPTは受検前の説明と後のフォローが非常に重要。検査をし、結果を通知するだけの無認定施設は大きな問題だ」と指摘する。 その理由は、NIPTは人工妊娠中絶につながる可能性があるためだ。日本医学会内の「出生前検査認証制度等運営委員会」が13~21年の受検者約10万人を調査したところ、NIPT後の確定検査で、胎児に病気があることが確定した人の77・6%が妊娠継続を諦める選択をした。徳島大学病院での受検でも同程度の比率という。 徳島大学病院でのカウンセリングは、認定遺伝カウンセラーと医師の2人体制で実施。検査の概要や精度、陽性になった場合の説明のほか、「誰もが誕生を祝福される命を持っている」「諸事情により、生むことを諦める選択も尊重される」と語り掛けるなど、選択の心理的サポートも行う。 加地准教授は「NIPTはそもそも、中絶することが選択肢に含まれている検査だ。受検する前に、陽性が確定した場合にどうするかを夫婦でよく相談し、決めておく必要がある」と話す。 新出生前診断(NIPT) 従来の出生前診断は羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査だが、子宮に針を刺すため流産の危険性がある。そこで、危険を伴わない簡便な方法として開発されたのがNIPTで、国内では2013年に導入された。日本医学会などは当初、生命倫理の観点から、対象年齢を原則35歳以上とし、受検前後のカウンセリングといったサポート体制の整った認定施設でのみ実施を認めていた。対象疾患はダウン症、13トリソミー、18トリソミーの3種類。陽性だった場合は羊水検査などの確定検査を受ける。徳島大学病院では初回カウンセリング当日に妊娠10週~14週6日の妊婦が対象で、費用は約17万円(保険適用外)。