【オートレース】78歳鈴木章夫「今年も無事に走れました…来年は元旦から」62年目の始まり~浜松・報知新聞社杯
◆第52回報知新聞社杯(12月21日開幕、浜松オートレース場) 78歳!不老の闘将が61年目のシーズンも無事に頑強に走り抜いた。 1回目の東京オリンピックが開催された同じ年にオートレーサーとなった鈴木章夫が2024年最後となるシリーズに向けて、メラメラと戦闘準備を整えていた。 開催前日のこの日も、若手レーサーたちよりも早くロッカーへ現れて、オイルを入れ替えたり、タイヤを整えたり、練習走行を繰り返したり、とにかく休むことなく、潑剌とした姿勢で一日を過ごしていた。 「長く選手を続ける秘けつですか? う~ん、無理をしないで、気楽にやることでしょうかね。普通にやる。でも、普通にやることができなくなったら、その時は辞めちゃうしかないよね」 無理をせず、気楽に、普通にやり続ける。言葉にするのはたやすいが、それがどれだけ大変なことか。 選手たちは毎日のように勝った、負けたを繰り返す。結果が出た時はいい。しかし、この世界は敗れる者の方がはるかに多い。 負けが込んでくると、気持ちが高まらなくなる。いつしか情熱は少しずつ冷めていき、その果てにレーサー人生に見切りをつける。鈴木よりずっと後にデビューして、ずっと先に引退した選手の多いことか。 しかも、オートレースはどの競技よりも危険を伴う。落車事故に遭遇すれば、最悪の事態に直面する可能性は、ファンの想像をはるかに超えるほど高い。 その世界で鈴木は生き残り続けている。それは同じ世代の奮闘が大きく影響しているのかもしれない。「ミッキー(篠崎実、75歳)はこの前、すごいレースをしていたね(16日のレースで落車反則)。まだまだ勝ちに行くから事故になっちゃうけれど、あれは自分にはできないよ。私は適当だから(苦笑)。ミッキーは本当に頑張っている。彼はすごいです!」 そんな篠崎は、いつも言っている。「オレも章夫さんも辞め時がわかんねえんだよ。まだ走れるからな。オレと章夫さんが頑張るもんだから、最近はじいさん世代の選手がすごいやる気を出すんだよ。みんな必死でやっているよな!」 ほんの何年か前、鈴木は胸に決めていたことがあった。「ほら、最初の東京オリンピックの年に選手になったもんだから、次の東京オリンピックが終わったら私も選手を辞めようかなと思っています。東京オリンピックで始まって東京オリンピックで終わる。なんかすごいね(笑)」 しかし、コロナの影響で2020年に開催される予定だった大会は延期に。「私の引退も伸びちゃったよ」と当時、苦笑いが止まらなかった。 そして翌年に大会は行われ、大きな盛り上がりで閉幕したが、鈴木は今も50歳以上も年の離れた若者たちと激闘を繰り返し、勝利を奪い合っている。 「80歳まで? ムリムリ、無理です(苦笑)。また新人も入ってくるし、もう私はいいですよ…」 首と手を同時に横に振ってそう言ったが、章夫さんの『辞める辞めるサギ』にはもうだまされません。 「今年はここが最後です。お世話になりました。来年は元旦からの開催からスタートです。今年も無事に走れました…」 やっぱり章夫さん、2025年も元旦から走る気マンマンのようです。 カメラを向けると闘将は少しはにかんでレンズを見つめた。 レースを終えて、ヘルメットを脱ぎ去る闘将の表情は、厳しくもタフな勝負師の面構えなのに、バックヤードでは、たまに昔のたばこ屋にいたようなやさしいおばあちゃんのように映ることがある。本当に不思議です。どっちの鈴木章夫選手もあまりに魅力的です。 この後のことは、わからない。でも、一日でも多く、少しでも長く元気に走る姿を楽しみに待っている人は大勢いる。私もその一人ですが、お体だけはどうぞ大切に。もう、それだけです。 (淡路 哲雄)
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