ディーゼルから客車まで JR新大阪駅近くの車両基地へ
団体貸切用車両「ジョイフルトレイン」
その隣には、SL「北びわこ号」で使われる12系客車とともに、特徴あるカラーリングの列車が2編成停まっていた。 「ジョイフルトレイン」と呼ばれる団体貸切用車両で、名前は「サロンカーなにわ」と「あすか」だ。「なにわ」はジョイフルトレインのはしりとして誕生し、すでに35年以上が経過。欧風の車体にゆったりとしたリクライニングシートを配置し、編成両端には展望室もある。 天皇陛下がご乗車になったこともあり、なるほど確かに高貴な雰囲気が漂う。対して「あすか」は和風客車で、畳敷きの車内に4人掛けの机と座椅子が並ぶ。こちらも編成両端には展望室があるほか、中央の4号車は屋根まで届く大きな窓を備えたラウンジカーとなっている。
「こいつらの出番も最近は減ってきて、特に「あすか」はもう何年もお客さんを乗せたことないんちゃうかなあ。いつでも使えるように整備してることやし、できればもっと使ってほしいなあ」と羽生さん。近年は列車を貸し切っての団体旅行も激減し、中でもスピードをあまり出せない客車列車は活躍の場がなくなりつつある。西日本を発着するブルートレインなど、かつて客車・機関車の一大基地として「東の品川・西の宮原」と言われた名門・宮原支所も、今や所属する客車はほんのわずか。羽生さんをはじめ客車職場のスタッフも現在は20人ほどだ。そして、羽生さんもまもなく退職を迎える。 「20歳でここへ来て、最初の8年くらいは検修係の下積み修業。ようやく車両を触れるようになって、トワイライトもできた当初から面倒を見てきて、JR西日本の看板車両を整備してるってのは誇りやったね。こいつと一緒に引退するのも何かあるんかもなあ。」 「トワイライト」の客車は、その一部が京都鉄道博物館に展示される。「博物館へ入ってるのを見たら、また「あそこ壊れてへんか?」とか気になってしまうんちゃうかなあ」と話す羽生さんの目は、長かった大仕事をやり終えた優しい目だった。 (文/伊原薫/鉄道ライター) ■伊原薫(いはら・かおる)大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。