両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.25
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
野草博士
本間は無念であった。あれほどひとりひとりの老人のことを思い、話を聞き、指が痛くて夜も眠れなくなるまで指圧をしてあげたのに、そんな噂が流れるとは。 短気で頑固な本間は、そんな老人たちの相手は二度とするまいと決め、翌日から指圧を止めた。収入が途絶えたので生活はどん底である。毎日のおかずはスーパーで安く買えるサバの水煮缶詰と、川の土手で摘むホトケノザやハコベラ、オギヨーそしてタンポポの若葉などの野草になった。 子供の頃、友達のいなかった本間は、自宅があった城跡の北の丸(現在の千秋公園)で一人で遊ぶことが多かった。広い北の丸の敷地には雑草と共に沢山の野草が生育していた。そんな野草に興味を持った彼は、学校で借りた植物図鑑を手にして北の丸を歩き回った。 植物採集が趣味となった彼は、学校から帰ると野山に行って野草などの特性(食用、薬用等)を調べた。地元の野草・草花で名前の分からないものは無くなった。 学校の先生に推薦されて県や市の植物採集コンクール出展した作品は、何度も表彰された。従って、デンバーの川の土手で、食用になる雑草を探すのもさほど難しいことではなかった。本間の探求心は何事においても「ただ者ではない」。転んでもただは起きぬ、そんな男なのだ。