世界ドキュメンタリー会議でモスクワへ＝昭和40年、羽田空港

《話は少々前後する。昭和40（1965）年7月、田原さんは初めての海外旅行に旅立つ。ソ連（当時）のモスクワで開催される世界ドキュメンタリー会議の代表として招待されたのだ。この旅が「共産主義と決別」させることに》 【写真】９０歳になった田原総一朗氏の〝遺言〟『全身ジャーナリスト』 どういうわけか、（東京12チャンネル＝現テレビ東京＝のディレクターである）僕が日本代表ということになった。当時のことだから羽田空港から香港・インドを経由し、ソ連のアエロフロートに乗り換え、ヒマラヤ山脈の上を飛んで、モスクワへと向かう。飛行機の窓越しにエベレストを写真に撮ろうとしたら、スチュワーデスが「ダメだ」という。モスクワの空港に着いたら同行者がカメラを置き忘れたことで〝たらい回し〟にされて散々なスタート。 《会議は、モスクワ映画祭の開催に合わせて行われるもので、日本からは、世界的俳優の三船敏郎（※1920～97年。代表作に『七人の侍』『レッド・サン』など）が来ていた。田原さんは自分で制作したドキュメンタリーを発表する》 招待者の立場だったので、「あれを見たい、これも…」と要求したら、たいていかなえてくれましたよ。さらに、「モスクワ大学の学生と話したい」と言ったら、10人くらいの学生を集めてくれたのです。 ちょうど、フルシチョフ（※ソ連共産党中央委員会第一書記として、スターリン後の最高指導者となった）が失脚した直後。僕はそれによって東西冷戦も〝雪解けムード〟が広がるのではないか、と期待していたので、学生に「どう思う？」って率直に聞いたのです。 すると、学生らは真っ青になって答えない。同行した主催者側のコーディネーターが僕のソデを引いて「政治の話はダメです。文化の話をしましょう」と言うではないですか。 そうか、この国（ソ連）に「言論の自由」はないんだ、とはっきり分かったのです。このことが共産（社会）主義に抱いていた幻想を打ち破るきっかけになったかな。それまでの僕は、先の大戦に唯一反対した、として、日本共産党を一番に信頼していましたからねぇ。 だが、実際にソ連に行ってみると、貧富の差がない平等で豊かな社会という触れ込みも、まったく違っている。僕は心から失望しました。訪ソ体験は人生の転換点になったと思う。