なぜパリ五輪にOA枠ゼロで挑むのか? 「一番困る質問がズバッと」U-23日本代表のデリケートなOA招集のリスク
●OA選手なしでパリ五輪に臨むサッカーU-23日本代表 日本サッカー協会(JFA)は3日、第33回オリンピック競技大会(パリ五輪)に臨むサッカーU-23日本代表メンバーを発表した。8大会連続となる五輪出場に向けたメンバーに、3人まで認められているオーバーエイジ(OA)からの選出はなし。選出がなかった背景には、日本サッカー界の実情が反映されている。 【画像】サッカーU-23日本代表、パリ五輪のベストフォーメーションがこれだ! 「それぞれ置かれている状況がまったく異なる。1人ひとり丁寧に進めていって、ギリギリということになると思う」 山本昌邦ナショナルチームダイレクターは、5月31日に行われた6月の代表活動に臨むメンバー発表会見で、OAの選出についてそう述べていた。連続出場している過去7大会のうち、OA枠を使わなかったのはアトランタ大会と北京大会のみ。前者は「マイアミの奇跡」と語り継がれるブラジル撃破を成し遂げたが2勝1敗、後者は3戦全敗、ともにグループステージ敗退という結果に終わっている。 OAが大会の結果を左右することは過去の成績が証明しているが、当時とは事情がかなり変わってきている。OA招集を阻む大きな障壁が、欧州のトップリーグで活躍する選手の増加にある。ベルギーリーグなどで活躍していたとしても、日本代表に選出されるかどうか保障されないほど、日本人の活躍は底上げされている。 秋春制の欧州主要リーグは、当然ながら冬よりも夏に多くの選手が移籍する。前のシーズンに活躍した選手にとっては、よりレベルの高いリーグやクラブにステップアップするチャンス。移籍市場はマッチングの需要とタイミング次第で成立するかどうかが変わる。 5月31日の会見でOA招集の状況を訊くと、山本ダイレクターは困惑した表情で「一番困る質問がズバッと来た」と答えた。そして、現実に直面している問題についてこう述べている。 ●選手を想う気持ち。「日本サッカーの正しい成長」とは… 「選手の成長があるからこういう難しい状況になった反面、嬉しくも思うし、日本サッカーの正しい成長なんだろうなとも思っている。我々に求められているハードルも上がってきている。オリンピックのメンバー、OAやU-23の海外組も同じことが言えるが、そういう状況に来ている」 ロンドン五輪の徳永悠平(FC東京)、アテネ五輪の曽ヶ端準(鹿島アントラーズ)など、ピンポイントで国内組が呼ばれた例はあるが、リオ五輪ではぶっつけ本番で国内組3人を招集してうまくいかなかった。国内組は招集のハードルが下がるかもしれないが、戦力としてカウントできる人材である必要はある。今回は4月からのAFC U-23アジアカップでチームが大きく成長したことも、OAゼロに踏み切る要因の1つになった。 そもそも、五輪はFIFAワールドカップの予選や本大会と異なり、FIFAが定めるインターナショナルマッチウィーク外であり、AFCアジアカップのような公式の大陸選手権でもないため、各クラブに選手を派遣する義務はない。招集するためには、所属元クラブと選手の両方の承諾を取らなくてはいけない。JFAは欧州にスタッフを常駐させ、日本人選手が所属するクラブと綿密にコミュニケーションを取っているが、この期間で移籍してしまうと話が変わってくる。 「移籍の可能性があったり、移籍先のクラブがどこになるか決まらない状況で、(OA候補選手たちは)五輪のチームに迷惑はかけたくない思いもあるので本当にデリケート。たとえ『じゃあ行きますよ』と本人が言ったとしても、突然大きな移籍が動き出すかもしれない。五輪の期間はクラブでトレーニングをする大事な時期になる。とてつもない競争の中でやるレベルの選手たちなので、ポジションが取れなければ9月のワールドカップ予選も呼ばれなくなってしまうリスクもある」(山本) そういったリスクは森保一監督率いるA代表にマイナスに働く可能性もある。Jリーグなどに所属する選手にとっては国際舞台で自身の価値をアピールするチャンスだが、欧州5大リーグでプレーする選手にとっては、そういったチャンスより怪我などのリスクの方が大きくなる。高いレベルでプレーする選手が増えたことは日本サッカーの成長の証かもしれないが、こと五輪においては難しい運営や選考を強いられることになった。 大岩剛監督はこれまでも、そして3日のメンバー発表でも「今回選んだメンバーがベストメンバー」と繰り返してきた。山本ダイレクターは「難しい選択を選手に背負わせるのは、我々としては避けたい」と言う。OAを招集する可能性は最後まで模索されたが、JFAは難しい決断を迫られる格好となった。 (取材・文:加藤健一)
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