スペインで急成長の柴崎岳が対豪州戦の歴史変える「これが運命。不安覆す」
J1と天皇杯の二冠を制したアントラーズの最終シーズンがまるで遠い過去だったかのように、目まぐるしく過ぎていった時間のなかで、それでも日本代表への憧憬の思いが消えることはなかった。 「運命というか、ベストを尽くして自分なりにサッカー人生を歩んでいれば、必ず縁がある場所だと思っていました。ただ、自分が選ばれたいと思っても、コントロールできるものでもない。それでもこうして選ばれたのはひとつ認められた証拠だし、選ばれたからには果たすべき責任があるので」 スペインでのわずかな日々で、さまざまなポジションを任された。アントラーズ時代から主戦場としてきたボランチだけではなく、2列目のサイドや、ヘタフェではツートップの一角も経験している。 半年ちょっとの間に「体」が大きくなったのでは、との問いに対しては「勘違いかと思います」と言下に否定した。それでも「技」と「心」は確実に変わってきている、という手応えを感じている。 「いろいろなポジションを任されたことで自分のプレーの幅も広がったと思うし、与えられた役割をまっとうできるだけのキャパシティーも増えてきている。もちろん(ボランチへの)こだわりがないことはないけど、与えられたポジションでしっかり自分を表現したい」 復帰を果たしたハリルジャパンではキャプテンの長谷部誠(フランクフルト)と組むボランチか、左肩脱臼から回復したばかりでコンディションにやや不安をもつ、香川真司(ドルトムント)が務めるトップ下での起用が見込まれる。 4人のフィールドプレーヤーがオーストラリア戦でのベンチ入りメンバーから外れるなかで、アピールする時間も限られてはいる。それでも、過去のワールドカップ予選で5分け2敗とひとつも白星をあげていない天敵へ、チーム一丸となって臨む心構えはすでにできている。 「(勝っていないことを)覆すいいチャンスだし、勝てばW杯出場が決まるという強いモチベーションもある。そういった不安要素よりは楽しみというか、ポジティブな気持ちのほうが大きいですね」 練習後の未明、サウジアラビアがUAE(アラブ首長国連邦)代表に1-2で逆転負けを喫したという吉報が飛び込んできた。スケジュールをあえて2日間、前倒しして、UAEに勝って暫定首位に立つことで、ホームで戦う日本に対して、さらにプレッシャーをかける青写真はもろくも崩れ去った。 サウジアラビアもやはり緊張している。オーストラリアも然り。生きるか死ぬか、天国か地獄かの決戦を大きく左右するのはメンタル。その意味では、スペインでどん底を味わわされながらはいあがってきた過程で強靭な心を宿した柴崎は、ハリルジャパンに必ず新たな力を与えてくれるはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)