「アメリカに防衛費用を支払え!」軍事援助の約束を無視したトランプの台湾批判にある危うさ
米国の「台湾関係法」
本年11月の米大統領選挙の行方を占うことは現時点では不可能である。が、トランプ候補が最近、米国の台湾への軍事支援について発言し、台湾はもっと多くの代価を支払うべきだと述べたことが注目されている。 上記の記事は、トランプ発言を紹介するとともに、トランプ発言の危うさに警鐘を鳴らすものとなっている。 振り返ってみれば、米国政府は台湾との間に外交関係がないにもかかわらず、「台湾関係法」(1979年4月14日)を議会で通過させ、国内法上、実質的に台湾に「防御的性格の武器を供与すること」(第2条)を約束している。 さらには、「台湾関係法」の中には、次のような規定もある。「台湾人民の安全、または社会、経済の制度に危害を与える如何なる武力行使にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」(2条B項)。 今日、米国による台湾への武器供与は中台間の軍事バランスを維持する上で不可欠な役割を果たしており、台湾にとって、米国はこの地域の平和と安全を守り、現状を維持する上で不可欠の盟友と言える。また、台湾は主要武器のほとんどを米国から購入している。
武器供与を含む軍事支援の内容については、重要な国家機密に属するため公開されていないものが多い。ただし、はっきりしていることは、米台間で十分な協議が行われた上で価格等も決められるのであり、トランプの言うように、台湾が米国に必要な代価を支払っていないというのは事実に反するのだろう。
防衛へ努力重ねる台湾
台湾は半導体生産の技術大国であるが、トランプは「台湾がもともと米国における半導体技術、生産において、米国の維持していた技術を奪った。今や、台湾は米国の犠牲の上に、拠点工場を米国に移した」と述べて、台湾を非難した。その上で、「台湾は防衛費を支払うべきだ。これではわれわれは保険会社と何ら変わりはない」と不満をぶつけている。 台湾の卓行政院長は、近年台湾は防衛費を増強しており、徴兵制度もそれに見合って変えてきており、台湾政府としてはこれからも台湾防衛のために努力する考えであることに変わりはないと強調した。 台湾の総統・頼清徳は7月23日に中国軍による軍事侵攻を想定した台湾軍の大規模年次演習「漢光」の実施に合わせ、東部花蓮にある空軍の基地を視察したと報道されている。総統府によれば、頼は兵士らに対し、「台湾人を安心させるだけではなく、世界にわれわれが国を守る決意であることを示してほしい」と訓示したという。 トランプの台湾非難は、米台間の「台湾関係法」以来の歴史を無視した一方的なものと言わざるを得ない。
岡崎研究所