新型マセラティ グラントゥーリズモは“知的なアスリート”だった! 素晴らしき乗り味に、シトロエンを思い出した意外な理由とは
シトロエンを彷彿としたワケ
2周目はドライブモードを、ステアリングホイールの3時の位置のスポークにある丸型のスイッチを右に捻ってスポーツに切り替える。エンジンのサウンドが俄然大きくなり、グオオオオオッというメカニカルなビートを発する。一瞬、5000rpmまでまわると惚れ惚れする排気音が聞こえてくる。サウンド増幅システムによるものらしいけれど、ごく自然で、陶酔感がある。 足まわりも当然引き締まる。でも、ガチガチではない。依然としてロールその他、姿勢変化を許す。ドライバーはロールと加減速時のノーズの動きを全身で感じながら、バーチャルなシミュレーターではない、リアリティを堪能することができる。これも“リア充”というのでしょうか。 0~100km/h加速3.5秒、最高速度320km/hを主張する第1級の動力性能を備えた高性能車なのに、粗暴な振る舞いは一切見せない。先導車付きで最高速度もストレートの終わりで150km/h出ているかどうか、に、抑えられていたこともあるにせよ、新型グラントゥーリズモはあくまでエレガントで洗練されている。 なによりよいのは、先代よりほぼ同サイズなのに、ひとまわり小さなクルマを操っている感があることだ。先代が重量級グランドツアラーだったとすると(それはそれで大いに魅力的だったけれど)、新型は中量級の趣がある。それはやっぱり、3.0リッターV6で、高出力、大トルクを発揮する最新ユニット、“ネットゥーノ”の最大の成果だろう。このV6と、よく動く脚がライトウェイト、と、表現したくなる軽快さを実現しているのだ。 余談ながら、ネットゥーノV6は同じ90度でおなじ3.0リッターということもあってか、筆者が最近試乗する機会に恵まれたシトロエン「SM」のオートマチックのマセラティV6に似ている……と、思った。 情熱は内側でメラメラと燃えている。だけど、外からはあまりわからない。それより知性と教養が優っていて、先代比、より運動能力に優れながら、その意味では、よりスポーツカー的でありながら、より沈着冷静で、頭を使ってプレーする。そういう知的なアスリート、を新型グラントゥーリズモはイメージさせた。 モダンでクール。私、新生マセラティの、すっかりファンになりました。
文・今尾直樹 写真・マセラティジャパン 編集・稲垣邦康(GQ)