異業種アスリートが挑戦 ソチ五輪ボブスレートライアウト
来年2月のソチ五輪へ向けて即戦力を発掘するボブスレー日本代表チームの公開トライアウトが26日、東京・大田区の都立つばさ総合高校で行われ、応募した46人は短距離走やベンチプレス、スクワットなど5つの種目で競技に必要な基礎体力をアピールした。 重さ約180kgのそりで氷上をMAX時速140kmで走るボブスレーは、2人乗りと4人乗りの2種目があり、操縦役のパイロット1人とスタート時に後ろからそりを押して加速させるブレーカーに役割が分担される。パイロットは4大会連続で五輪に出場している39歳のベテラン鈴木寛が健在なのに対し、選手層が薄いのがブレーカーだ。2009年に続いて2度目となるトライアウトもブレーカー探しが目的で、理想とされる「体が大きく、かつ瞬発力とパワーを兼ね備えたアスリート」を求めて、連盟側はラグビーのトップリーグや日本プロ野球機構、Jリーグをはじめとする他の競技団体にも今回のトライアウト実施を広く告知したという。 男子の応募資格は、16歳以上で(1)身長180cm以上(2)体重90kg(3)50m走5秒6(4)スクワット180kgの4つの条件のいずれかひとつを満たすという厳しいもの。大柄で身体能力が高い外国勢に対抗できるブレーカーが必要不可欠だったからだ。 この日、すべてのテストで高い数字を残し、178cm、103kgの筋骨隆々のボディとともに連盟側の期待に応えたのがアメリカンフットボールの日本代表経験があり、現在もXリーグのアサヒ飲料チャレンジャーズでDLとしてプレーする28歳の和久憲三だ。 実は、和久は、すでに昨年12月から、ボブスレーでのソチ五輪出場を目指してブレーカーの練習をスタートさせている。未知の競技を志したきっかけは、テレビで観戦した昨夏のロンドン五輪だった。 「陸上のボルト選手や体操の内村君の人間離れした技を見て、自分も体が動くうちにあの舞台に立ちたいと自然と思うようになった。それまでは五輪の一視聴者に過ぎなかったんですけどね(笑)」 今から自分に何ができるのか。自問自答を繰り返した時に思い出したのが、アメリカンフットボールからボブスレーに転身し、2002年のソルトレイクシティ五輪に出場した安部奈知の存在だった。 思い立ったら吉日、とばかりにボブスレー関係者に自身の身体能力を示すデータを送った。念願かなってトリノ五輪のボブスレー日本代表監督の大賀康弘氏の指導を受けるようになったが、初めて氷上をソリで走った時には「4回もこけました」と苦笑いで振り返る。 「肩と頭を強く打ちつけたのに無傷。頑丈な体はアメフトのおかげだ、とみんなから言われましたね」。 アメフト界の名門・関西大学の出身。プロになりたいという目標をかなえるために、2009年11月にそれまで務めていた野村證券を退社。オフのなると毎年のように海外リーグのトライアウトを受けてきた。昨年はNFLとカナダの独立リーグのトライアウトに臨んだが、なかなか吉報は届かない。 脱サラ後はジムのトレーナーとして最低限の収入を得てきた。決して楽な生活ではないが、これからもアメフトとボブスレーの「二刀流」で勝負していく覚悟はすでに固まっている。 「今日はやれることを全部やったけど、この記録がベストではない。自分の伸びしろを見ていただけたら嬉しいですね。終わったことは自分で変えることはできないので、吉報を信じて自分のトレーニングを続けるだけです。ボブスレーはアメフトに生きるし、アメフトもまたボブスレーに生きる。そんなに甘くないと言われるかもしれませんが、夢を追いかけ続けていきたい。彼女からは『早く結婚して』とプレッシャーをかけられているんですけどね(笑)」。