表現の自由を阻むロシアの「罵り言葉禁止法」の対抗策 ズビャギンツェフ監督
「子はかすがい」はロシアにも この映画で語りたかった監督の思い
ーー日本ではロシアの人たちがどんな生活をしているのか知る機会はあまりありません。食事中にスマートフォンをいじったり、飲み会ではしゃいだり、日本人の日常と似ている部分もあるのだなと思いました。どの国にも不仲だったり愛情を失っていたりする夫婦はいると思いますが、日本には「子はかすがい」という言葉があり、なんとなく乗り越えられているような気がします。 ズビャギンツェフ監督:ロシアでも「子はかすがい」となっていて、何年も家庭内離婚状態だけれども一緒に暮らしている夫婦はいますよ。『ラブレス』の中では、不和や不幸が究極的にハイパーな状態の夫婦関係を表現しています。だけれどもそれは観ている人たちに注目してほしいから。焦点を当てて、極端化しているんですよね。私の映画を観てロシアを知ってくださるのはうれしいのですけれど、注意してほしいのはロシアという国の一面でしかないということです。私というバイアスがかかっているから、客観的なロシアではないということです。実際のロシアというのはもっと幅が広くてフレキシブルでいろいろな面を持っているということは忘れないでいただきたいです。2時間の映画はとにかく濃縮して、極端化し、観客の心に響くような呼びかけにするように心がけています。
私が見せたかったのは、「恋愛というものはこういうものではないでしょう」ということ。相手に対する愛や相手を大切に思う気持ちがないなら、恋愛をしてはいけないし、エゴイズムを抑えなくてはいけない。そういった気持ちのない恋愛というものはこういう結末を招きその結果、犠牲になる子どもがいるのです。それを忘れないで、というメッセージが込められています。 主役のジェーニャのオーディションに参加したある女優さんから、こんな話を聞きました。「初めて脚本を読み終えたとき、夜中の2時になっていました。思わず、寝室で眠っている2歳の娘のところに駆け寄り、抱きしめずにはいられませんでした」と。きっと、それは「ごめんね、ごめんね、もっと遊んであげたいけれど、ごめんね」という意味だったんだと思うんですけれど、涙を流しながら抱きしめたと、彼女は話していました。 この映画をつくるときに、理論的なところはさておき、感情面での製作者の意図には、ふだん自分のことばかりで忙しくてなかなか存在を忘れている家族、子、夫、親、妻のことを思い出して家に帰って抱きしめようよという観客へのメッセージがあったのは確かです。