J1湘南・鈴木雄斗が諭す「兼業投資家」が最優先すべきもの
アスリートでありながら、投資家としての意識を持つ「アスリート投資家」たちに、自らの資産管理や投資経験を語ってもらう連載「 アスリート投資家の流儀 」。水戸ホーリーホックを皮切りに、モンテディオ山形、川崎フロンターレ、ガンバ大阪、松本山雅、ジュビロ磐田と全国各地のJクラブを渡り歩き、今季から湘南ベルマーレでプレーする30歳の右ウイングバック・鈴木雄斗選手の最終回です。 J2からJ1までこれまで在籍したチームでさまざまな経験を積み、30代になった今、才能を大きく開花させている鈴木選手。湘南ベルマーレの今夏の快進撃も、右サイドを疾走し、ハードワークを続ける彼の存在なくしては語れません。 昨今のサッカー選手は30代後半までフル稼働している選手も少なくありません。今夏に現役を退いた元日本代表キャプテン・長谷部誠さん(現フランクフルトU-21コーチ兼日本代表コーチ)のように40代まで高いレベルでプレーし続ける選手もいます。 鈴木選手も「30代になってもまだまだ成長できる」と前向きなモチベーションを持ち続けている1人。あと10年はトップフォームを維持できるのではないでしょうか。 「若い頃に自分に投資し、プレーヤーとしての土台を築いてきたからこそ、今がある。やっぱりJリーガーはまず本業を頑張らないといけない」という確固たる哲学を持つ鈴木選手に、お金との向き合い方やセカンドキャリアの考え方を聞きました。 ■最も大事なのは「ファーストキャリア問題」 ――今は投資の勉強を欠かさない鈴木選手ですが、その元手があるのも、やはりサッカー選手として自己研鑽を続けてきたからですよね。 鈴木:そうですね。僕の本業はあくまでサッカー選手であって、個人投資家ではありません。横浜F・マリノスユースからトップに上がれず、水戸でプロキャリアをスタートさせた頃から「絶対にサッカーで成功してやる」という夢を描いていた。当時は「いつかJ1に上がって、日本代表になって、海外でもプレーしたい」というくらいのことは考えていましたね。 それを実現するために、何をすべきかを毎日考えて取り組んでいたのは確か。 前にもお話しした とおり、J1のトップ選手が通うような高額なトレーニングジムに行ったり、サプリメントを買ったり、本当にいろいろなことをやってきました。 その成果もあって、今年でプロとして12年目を迎えることができた。投資ができるのも、そうやって本業に全力を注いだから。すべてはその見返りなんです。 だからこそ、若い選手には「本業のサッカーを死ぬ気で頑張らないとダメだ」と伝えたい。著名投資家のテスタさんも「手元に100万円があって、そのお金で株を買うよりも、知識を身につけて、本業の賃金を引き上げて、500万円にしてから投資をしたほうがうまみが出る」と言っていますよね。僕もその考え方に強く賛同しています。 ――鈴木選手が今、手がけている高配当株投資にしても、資金力があるほうがより大きな成果を手にしやすいですし、何かアクシデントが起きた場合のリカバリーも可能ですよね。 鈴木:そう思います。サッカー界ではよく「セカンドキャリア問題」が話題に上がります。僕自身も25歳で結婚した頃から少しずつ考えるようになりましたが、やっぱりいちばん大事なのは「ファーストキャリア問題」なんです。ファーストキャリアをしっかり構築できれば、セカンドキャリアの選択肢も増えます。 若くてお金がない頃を思い出すと、自分がやりたいことのために我慢する人生と、遊びたいときに遊ぶ人生、どちらも選ぶことができたと思います。どちらを選んでもいいことがあると思いますけど、自分の場合は若いときにいろいろなものを犠牲にしてサッカーに懸けてきた。それが面白かったですし、いい生き方につながったのかなと感じています。 ■経済的な余裕は本業にもプラス ――そういう話はやはり説得力がありますね。今後の生き方をどのようにイメージしていますか。 鈴木:今はサッカー選手をできるところまで続けたいと思っています。仮に40歳まで続けたとして、それまではクラブが変わるたびに家族にいろいろな場所へついてきてもらうことになる。すごく負担をかけることになります。だから、引退したら家族に寄り添っていきたいですし、妻には好きな仕事をしてほしい。子供たちにもいい教育を受けさせたいと考えています。 セカンドキャリアでやりたい仕事はまだ決まっていないけれど、選手をやめてすぐにやりたいことをやれる状態にはしておきたいですね。仮に近くのサッカースクールから「月10万円しか払えないんだけど、教えてもらえないか」とお願いされたとして、その時点で経済的な余裕があれば、それも引き受けられますよね。 そのためにも、今の高配当株投資を続けて、配当収入で月に40万~50万円は手元に入ってくるようなフォーメーションを築いておきたいです。 ――湘南ベルマーレの先輩・ 山田直輝選手 も同じようなビジョンを描いていました。 鈴木:直輝くんとはよくそういう話をしています。やっぱり引退したあともお金が入ってくるような状態にしておくことは、リスクの大きいプロサッカー選手には必要なことだと思います。 最近は現役中に起業する選手も増えています。そうやって経済基盤を固めておくことは個人事業主として大切です。それによって、本業であるサッカーにより落ち着いて取り組めるようになれば理想ではないかと感じます。 ■引き出しはたくさんあったほうがいい ――今後の投資の方向性についてはいかがですか。 鈴木:基本的には今の高配当株投資を続けていくつもりです。日経平均株価などの指標もチェックしていきますし、もっと知識を増やしたいですね。 一方で不動産にも興味があります。つい最近、『本当に家を買っても大丈夫か?と思ったら読む 住宅購入の思考法』という江口亮介さんの本を読みました。選手の中にも「不動産はどうかな?」と言っている人がいます。 今は都内のマンションの平均価格が1億円を超えたという話も聞きますし、やっぱり場所を選ばないといけないでしょうね。資産価値を見極められないとなかなか難しいと思いますが、そういうことも勉強していけたらいいと思います。 前回も話しました が、やっぱり僕はサッカーだけじゃなくて、いろいろなことに興味・関心を持って、学んでいくことが大切だと考えています。そのほうがより多角的に人生や仕事、マネーのことも見られるようになるのかなと感じています。 引き出しがたくさんあったほうが生きるうえで絶対にプラスになります。それはサッカー選手も一緒。幅広い仕事ができる選手はどんな監督にも使われるでしょうし、より充実したキャリアを送れるようになる。そう信じて、これからも前向きに進んでいきたいです。 鈴木選手が強調するように、若いときにどのような生き方をするかは非常に重要です。そこで自分のキャリアアップに注力し、実績や経験を積み重ね、収入を増やすことができれば、投資にも思い切って取り組めます。 そういう環境を作るためにも、やはり目の前の仕事に目を向け、なりふり構わずに突き進む時期があってもいいでしょう。それがいい投資の第一歩。鈴木選手のスタンスをぜひ多くの人に理解していただきたいです。 元川 悦子(もとかわ・えつこ)/サッカージャーナリスト。1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
元川 悦子