センバツ高校野球 作新、意地の3点 「全員野球」に温かい拍手 /栃木
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第10日の29日、作新学院は山梨学院(山梨)と対戦し、3―12で敗れた。四、六、八回に1点ずつ返す意地をみせるも、序盤の大量失点が響き、準決勝進出はならなかった。チームワークが身上の作新学院は、ずば抜けた選手はいなかったが、今大会にはベンチ入りの全選手が出場。文字通り「全員野球」を体現したナインにスタンドからは温かい拍手が送られた。【井上知大、戸田紗友莉】 8点をリードされた四回表、先頭の高森風我が内野安打で出塁した。2死二塁となって、4番・斎藤綾介が打席に。「自分が打って流れを変えてやろう」と、低めの直球を中前にはじき返し、1点を返した。斎藤の父勝巳さん(51)は「1本ヒットがほしいというところで打ってくれた。これから逆転だ」と気合を入れ直す。 チアリーディング部の西野美咲部長は斎藤とクラスメート。「斎藤君はクラスでは静かだけれど、学年で成績も常にトップクラス。文武両道の鏡のような存在。身近な彼が活躍してうれしい」と話し、他の部員らと共に笑顔とダンスでグラウンドにエールを送った。 点差が9点に広がっていた六回表、高森にソロ本塁打が飛び出した。高森は八回にも適時右前打を放ち、この日チームが挙げた3得点全てに絡んだ。母みゆきさん(42)は「打った瞬間、打球が切れてファウルにならないかひやっとしたが、(左翼席に)入ってくれてよかった」と笑顔。「センバツ開幕以降、いつもの調子が出ずに心配していたけれど、やっと打ってくれた。幼い頃から憧れた甲子園でホームランを打つなんて」と喜びをかみしめた。 しかし、反撃もここまで。八回までに4度の3者凡退を喫するなど山梨学院の主戦・林謙吾を攻略できず、試合をひっくり返せなかった。 先発した川又楓は「決め球のチェンジアップや内角の直球がストライクを取れなかったり、甘いコースになったりし、自分から崩れてしまう投球だった」と悔しがった。続けて「栃木に帰ってから一日も無駄にせず練習し、完投できる力をつけて夏の甲子園に帰ってきたい」と振り絞った。 平日朝にもかかわらず、作新学院の応援席に多くの人が駆けつけていた。この春、作新学院を卒業したばかりの大本有莉奈さん(18)はセンバツの全3試合を観戦。「最後まで粘り強い野球をしてくれた。悔しいけれど、夏にまた戻ってきてほしい」と話した。 ◇知事、甲子園で観戦 ○…一塁側アルプスには黄緑色のジャンパーに身を包んだ学校関係者らが集まった。新型コロナウイルスの影響で例年用意していた黄色のジャンパーが用意できず、栃木県章に使われている黄緑色を採用。同じジャンパーに袖を通した福田富一知事も応援に駆けつけた。甲子園での観戦は2016年夏に作新学院が優勝した時以来だといい、「また日本一になるところが見たい」。公務のため七回終了後に甲子園を後にしたが「作新の持ち味は不屈の精神。点数は先行されているが、最後には必ず逆転してくれると信じている」とエールを送っていた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇「風」を変え待望の一発 作新学院・高森風我(ふうが)中堅手(3年) 3ボールからのファーストストライクを捉え左翼席に運ぶと、自然とガッツポーズが出た。不調が続いていただけに待望の一発だった。昨秋の県大会、関東大会で6割に迫る打率をマーク。長打力もある1番打者として知られるようになったが、今大会では相手に厳しくマークされたことで焦りが生まれ、スランプに陥っていた。 俊足巧打を作り上げたのは、現役の競輪選手である父圭介さん(45)との自主トレーニングだ。競技用自転車で脚力の鍛え方を教えてくれたり、バドミントンのシャトルで打撃練習を付き合ってくれたり。「風我」と名付けたのも圭介さんだ。競輪選手らしく「人生は風(状況)を読むことが大事。そしてどんな風も自分のものに変えられるように」との願いを込めた。 山梨学院戦では、1本塁打を含む4打数3安打2打点と大復活。試合後、「ずっとチームに迷惑をかけていた。みんなのおかげで準々決勝まで来ることができた」と感謝したが、「チームを勝たせる打撃をしたかった」と悔しさもにじませた。 もがきながらも自分を信じ、見事に風を自分のものに変えることができたこのセンバツ。大きな経験を積ませてくれた甲子園に「必ず帰ってくる」と誓った。【井上知大】