2度のがんを経験して感じた「筋肉」の大切さ。維持しておくことが大きな力に
筋肉研究の第一人者、東京大学名誉教授・石井直方先生は、2016年、2020年と2度のがんを体験し、いまも抗がん剤治療を続けています。そんな石井先生ですが、最初の入院生活を終えて病院を出たときに、驚いたのが”自分の脚力が思ったより衰えていた”ことなのだそう。
2度のがんになって気づいた大切なこと
ここでは、12月に発売した『鍛えれば筋肉は味方する いのちのスクワット』(扶桑社刊)から、がんになって実感した「筋肉」の大切さについて紹介します。
●わずか700mの距離が歩けなくなっていた!
「1回目の入院生活(約1か月)を終え、帰宅した日、わずか700mの距離が休憩なしでは歩ききれませんでした。入院中、病院内を歩いている分には足の衰えを感じたことはなかったのですが、自分の脚力が思ったより衰えていることが分かりました」(石井先生、以下同) 私たちの足腰にはもともと余力があるので、たとえ足腰が衰えてきていても、なかなかそれに気づけません。自分で足腰が弱っているなと感じたときは、かなり衰えが進んでしまっているのです。
●筋肉は30代がピークで40代から急激に減少する!
特定の病気とは無関係に、筋肉が衰える要因にはおもに2つあります。 <筋肉が衰える2大要因> (1) 加齢 (2) 活動量の低下 普通に生活していても、年とともに筋肉は自然に落ちていきます。30歳頃から緩やかに減り始め、40~50歳あたりで、落ちるスピードが速くなります。なにもしないと、30歳から80歳までの50年間で、太ももの筋肉はほぼ半分になってしまうのです。また、日常生活での活動量が少ないことが積み重なると、筋肉を減らす原因になります。 「もっとも典型的なのが、私のような長期の入院生活を送ったケースです。極端な場合、ベッドで寝たきりになると、脚の筋肉は1日で0.5%も減少します。40~50代以降は、年に1%の筋肉が落ちていきますので、その計算でいけば、2日寝たきりでいると1年分の筋肉が落ちてしまいます」
●がんサバイバーになって気づいたこと、考えたこと
石井先生が入院中の無菌室の中でもしていたのが、「スロースクワット」です。 それは、4秒かけて腰を落としたら、そこで4秒キープ、次に4秒かけてゆっくり立ち上がるというもの。石井先生は、これを8回×3セット行っていました。 「2度のがんを乗り越えられたのは、主治医とスタッフの皆さんの最適な治療のおかげであったことはもちろんですが、私自身、長年のトレーニングによる基礎的な体力があったからこそ、厳しい治療を乗りきることができたのだと思います。筋肉を鍛えていたからこそ、無事に元気な体で自分の家に帰ってくることができたのです」 東大病院の多くの患者さんのデータ分析からも、大腰筋(だいようきん)が太いほど、つまり体幹の筋肉がしっかりしているほど、術後の回復が早いことがわかってきています。 石井先生は、実際に困難ながん治療と手術を経験して、「筋肉をしっかり維持しておくことがいのちを助ける大きな力となる」と改めて実感するようになったそうです。 「根気よくスロトレを続けていくことで、筋力が強化されれば、生活スタイルが変わり、生活の質も上がっていきます。そしてそれが、健康維持やがん、ほかの病気の予防にも役立っていくことは言うまでもありません」 『鍛えれば筋肉は味方する いのちのスクワット』(扶桑社刊)では、石井直方東大名誉教授が人生100年時代を見据えて開発した新発想の「スロースクワット」を紹介しています。週2~3回するだけで、ヘビー筋トレ並みの効果が! 最新の研究によると、筋肉を鍛えると足腰が丈夫になるだけでなく、糖尿病やがん、認知症予防、免疫力UP、肥満の予防などのさまざまな効果が期待できるそうです。知られざる筋肉の役割についても解説しています。
ESSEonline編集部