80年代『極悪女王』を生で見た記者「あの頃、会場の女子中高生はダンプ松本に本気で怒っていた」
いろんな意味でガチすぎる時代だった
それは「殺気」だった。 あのころ、会場を埋め尽くした女子中高生は本気で怒っていた。反則を繰り返すダンプ松本に対して、最初は「ひどい!」「やめて!」と叫んでいるのだが、いつしか「帰れ!」になり、ついには「死ね!」にエスカレートしていく。昭和の時代、ブーイングとなどというライト感覚な声援はまだ日本では浸透しておらず、どストレートに嫌悪感を示すしかなかったのだ。 もちろん男のプロレスの会場でもおじさんたちが「猪木、シンをぶっ殺せ!」と絶叫していたりはしたけれど、同世代の女の子がそんな言葉を口にしている姿は学校では絶対に見かけなかったし、四方をぐるりと女子中高生に囲まれているから、サラウンドで怒号が耳に入ってくる。あの女の子たちの「殺気」にすっかり萎えてしまったことを40年ぶりに思い出した。いろんな意味でガチすぎる時代だったのだ。 そういえば、そのころ隣のクラスの女の子から放課後に喫茶店に呼び出されたことがあった。これって、まさか……と胸を躍らせて向かったら「私、女子プロレスラーになりたんだけど、どうしたらいいの?」という相談だった。進学校に通う、運動経験ゼロの女の子までが中退まで決意して女子プロレスラーになりたい、と真剣に考えた、これが『極悪女王』の時代の超リアル。 さすがに必死で諦めさせたが、あのとき、彼女が中退して全女に入っていたらアジャコングと同期になっていたことになるわけで、やっぱり絶対に無理だったな、といまさらながらに納得。一本のドラマが忘れかけていた昭和の記憶を蘇らせてくれた。それだけリアルな時代考証だったわけで、まさに「観るタイムマシン」がそこにあった!
小島 和宏