廃園となったテーマパークで起こる殺人 結末の真相に驚かされる(レビュー)
日本での廃墟ブームは一九八〇年代に起こり、二〇〇〇年代以降はインターネット上で自らが廃墟巡りの成果をアップすることが個人によって盛んに行われている。斜線堂有紀『廃遊園地の殺人』の主要登場人物のひとり、眞上永太郎も廃墟マニアのフリーターだ。 眞上はかつてイリュジオンランドと呼ばれた閉鎖されたテーマパーク跡地にやってきた。イリュジオンランドはプレオープンの日に男が銃乱射事件を起こし、多数の死傷者を出したことで廃園を余儀なくされた。廃園後間もなくして十嶋庵という資産家がイリュジオンランドを買収し管理していたが、事件から二〇年が経った現在、十嶋はこの廃園に招待客を集め、所有権を懸けた宝探しを開催する。だが、そこで凄惨な殺人事件が発生するのだ。 閉鎖された空間の中で、異様な犯行現場が描かれ読者の度肝を抜く。同時になぜこのような状況になったのか、という謎が物語を牽引する力となっている。謎解きのアイディアが詰め込まれた後半部が最大の読みどころで、予想よりも規模の大きい真相にも驚かされるはずだ。単行本版からの大改稿を経て洗練された文章にも注目。
人々の生活圏から離れた閉鎖空間という意味において、廃墟はミステリ、中でもホラー要素の強い作品では物語の舞台として重宝されている。三津田信三『スラッシャー 廃園の殺人』(角川ホラー文庫)は、かつてホラー作家が造った廃墟庭園を訪れた映画撮影のスタッフたちが謎の怪人に襲われるというホラーミステリ。スリリングな仕掛けと、著者のホラー映画への愛に溢れた描写が満載だ。
日本のみならず、廃墟への好奇心は世界共通のようで、廃墟にまつわる話が盛り込まれた海外ミステリも刊行されている。アンデシュ・デ・ラ・モッツ『山の王』(上下巻、井上舞・下倉亮一訳、扶桑社ミステリー)は問題児だらけの部署に飛ばされた警部レオ・アスカーの活躍を描くスウェーデンの警察小説だが、主人公に捜査協力を行う幼馴染の廃墟研究家という、風変わりな登場人物が目を引く。 [レビュアー]若林踏(書評家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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