再生可能エネルギーの導入、なぜ日本は遅れている?専門家「技術やコストでなく…」
一昔前まで「電力を貯めるのはコストがかかりすぎて現実にはあり得ない」というのが常識だったが、わずか10年で完全に覆されている。ITのめざましい進化と同じくらい、日進月歩している。背景には、米国や中国が、国際情勢に左右されないエネルギーの国産化に注力したように、経済安全保障上の動機もあるだろう。 私たちが昨年3月に発表した日本の電力脱炭素化に関する報告書では、既に商用化されている技術で、CO2を排出しないクリーンエネルギーの比率を2035年までに9割にできることを示した。現在の日本の再エネ比率は約2割だが、太陽光と洋上を含む風力を中心に再エネを7割まで増やして蓄電池を活用することを想定している。この研究では、日本の政策目標に合わせてクリーンエネルギーに原子力を含めたが、電源構成の1割強に低減しても問題ないこともわかった。
エネルギーの安定供給のために、輸入品である「天然ガスを増やさないといけない」という議論をしばしば耳にするが、疑問だ。自給可能な再エネへの転換こそが、国際情勢に影響されないエネルギー安全保障の強化にもつながる。 「コストが高いので再エネを導入できない」というのも誤りで、私たちの試算ではむしろ、再エネ比率を上げることで2020年と比べて6%削減された。 日本の再エネ導入が欧米や中国と比べて遅い原因は、技術でもコストでもない。必要なのは、政策や制度の策定や見直しだ。再エネの導入を前提に含めた送配電網の整備計画や、需給バランスに合わせた柔軟な価格設定による電力需要の誘導なども有効だろう。発送電の分離が実質的に行われていないという問題もある。産業構造の変化も必要で、実現には強力な政策が不可欠だ。 電力の生産側には痛みをもたらす変化かもしれないが、脱炭素化という目標がある以上、避けては通れないことを理解するべきだ。現に、世界は再エネを中心とする社会に向かって進んでいる。日本でも十分に実現可能な未来像だ。そのための計画と行動がいま、求められている。
朝日新聞社