馬術で92年ぶりの快挙を達成した“初老ジャパン”のエース、戸本一真の新たな挑戦
「初老ジャパンのネーミング、気に入っています」
日本代表が“初老”になったのは必然だった。日本の選手が世界で戦えるようになるには、馬術の競技会が毎週のように開催される本場の欧州で経験を積むことが欠かせない。欧州での生活は最長の大岩で24年、最短の戸本でも8年に及ぶ。 根岸監督は「欧州で開催される大会の数は日本の10倍以上もある。小さい頃から経験を積める欧州の選手と違い、日本の選手は本場で経験を積まないとレベルが上がらない。だから、皆、世界で通用するようになる頃には初老なんです」と説明した。 パリ五輪後、メンバーは街を歩けば「初老じゃね?」と指をさされたり「馬術の方ですよね」と声をかけられるようになった。SNS上では「初老は失礼」との声も上がり「イケオジ・ジャパン」や「ダンディー・ジャパン」など新ニックネームの候補も飛び交う。 戸本は「そんなにイケオジではない。“初老ジャパン”のネーミングがなければ、ここまで注目されていたかは疑問。今は気に入っています」と笑う。 2024年12月には4人揃ってJRA馬事公苑でトークショーと競技のデモンストレーションを行った。イベント名は昭和を意識し「クリスマスだヨ!初老ジャパン全員集合」。詰めかけた多くのファンの前で、人馬一体の迫力ある動きを披露して競技の魅力を伝えた。 初老ジャパンから離れる戸本だが、国内で競技は続ける。新拠点となるJRA馬事公苑は練習環境が充実しており、2026年アジア大会では会場としても使用される。後進の指導に当たりながらトレーニングを続け、自ら若手の壁になるつもり。もちろん、2028年ロサンゼルス五輪出場への思いも捨てていない。 「環境が変わるので日本でどんなトレーニングができるのかを考えて、ロスに向けて自分にチャンスが巡って来た時に“いつでもいけますよ”と言えるように準備していきたい」 4人は公私ともに親交が深く、絆は強い。更に輝くメダルを目指す2028年のロサンゼルス五輪を前に、戸本の再合流はあるのか。競技会やイベントでの抜群のチームワークを見ていると、4年後も同じ4人で戦うことを期待せずにはいられない。 戸本一真/Kazuma Tomoto 1983年6月5日岐阜県生まれ。明治大学を経て日本中央競馬会に所属。競馬学校の教官経験がある。2021年東京五輪では総合馬術個人で4位。2024年パリ五輪は総合馬術の団体で銅、個人で5位入賞。
TEXT=木本新也