プーチン大統領”領土割譲”を要求 ウクライナ猛反発「ヒトラーと同じだ」
2)参加国の拡大を優先した、ウクライナ平和サミット
プーチン大統領の今回の発言は、ゼレンスキー大統領が力を入れてきた「ウクライナ平和サミット」を意識してのものとみられる。 この国際会議は、ウクライナが提唱する和平案を協議するため、6月15日からスイスで行われ「核・原発の安全保障」、「食糧安保」、「捕虜や拉致された子どもの解放」の3項目を重点的に討議している。 当初、ゼレンスキー大統領は、「全領土の回復」や「ロシア軍の撤退」なども討議内容に含めていたが、討議テーマを絞り込むことで、参加国の拡大を優先したとされている。 平和サミットには、岸田総理やアメリカのハリス副大統領など92カ国の首脳や閣僚級、さらに国連など8つの国際機関が参加した。中国やブラジル、サウジアラビアなどは、ロシアが加わっていないことに反発し、当初は参加しないとみられていたが、結局サウジアラビアは外相が参加、ブラジルはオブザーバーとして特使を派遣した。中国は参加していない。 駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、以下のように分析した。 今回討議されている3項目(「核・原発の安全保障」、「食糧安保」、「捕虜解放」)は、実は去年の2月に中国が示した和平案にも盛り込まれていた項目だ。つまり、中国などロシアとの関係を重視する国々でも参加できる案に絞り込んできている。 戦場の状況は、まだまだ和平には程遠い状況だが、将来に繋げるため参加国を増やしたいという主催国スイスの意向も汲んで、討議を3つに絞り込むという判断をした結果、これだけ参加国が集まったということだろう。
3)ウクライナ 中国への対応を方針転換か
6月2日、ゼレンスキー大統領が平和サミットへの参加を各国に呼び掛けた際、「ロシアが中国の助けを借りて、平和サミットに参加しないよう各国に圧力をかけようとしている」と発言した。駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、この発言に注目する。 ウクライナにとって中国は非常に大きな存在であり、将来の和平協議で味方につけたい。昨年2月に中国が提示した和平案にNATOやアメリカは、かなり批判的な声明を出したが、ゼレンスキー大統領は、「中国がこの問題に真剣に向き合っているのはいいことだ」「復興面でも大きな期待がある」など好意的なコメントをした。2014年のクリミア占領以降、ウクライナはロシアとの貿易関係を急速に絞っており、いまや中国は最大の貿易相手国だ。中国抜きで、今後の経済発展や安全保障は成り立たないという判断があり、協調する姿勢を示してきたが、ここに来て、かなり見切りをつけたと。プーチン大統領が5選目に入った5月以降、習近平国家主席は、表向きは和平提案を示しつつも、政治的、軍事的、経済的にも、ロシアの戦争を後押ししていることから、この厳しい発言に至ったのだろう。 ゼレンスキー大統領は、13日のバイデン大統領との共同記者会見で、「(習近平国家主席は電話会談で)私と約束した。もし彼が正直な人間なら武器を売らないだろう」と発言した。この発言の直後、バイデン大統領は「中国は兵器を製造する能力や技術を(ロシアに)供給している」と発言した。 駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、以下のように述べた。 ウクライナ側は、中国は、表向きは停戦を求めるそぶりを見せているが、裏では戦争を後押ししている、言行不一致だと不満を抱いている。中国は、「武器は売らない」と繰り返し表明し、直接武器を輸出してないが、ほぼそれに等しい効果のあることを実行しているではないか、と釘を刺そうという意図だと思う。