名優マイケル・ケインの必見作を一気にチェック!オスカー受賞作から「ダークナイト」3部作、引退を飾る『2度目のはなればなれ』まで
英国を代表する名優マイケル・ケインが、2023年6月15日に87歳でこの世を去った名女優グレンダ・ジャクソンと約50年ぶりの共演を果たした『2度目のはなればなれ』(10月11日公開)。本作をもってその華麗な俳優人生に幕を下ろすことを明らかにしているケインを讃え、本稿では彼のキャリアを語る上で欠かすことのできない必見の出演作を紹介しながら、その軌跡をたどっていこう。 【写真を見る】70年のキャリアで180本以上!意外なジャンルにも挑む英国の名優、必見の出演作はやっぱりオスカー受賞作 ■出演作は180本以上!ハードボイルドからコメディまでこなす名優 1933年にロンドンで生まれ、1950年ごろから舞台俳優としてキャリアをスタートさせたケイン。長い下積み期間を経て『ズール戦争』(64)や『国際諜報局』(65)で注目を集めると、『アルフィー』(66)でアカデミー賞主演男優賞に初ノミネート。名実ともにスター俳優の仲間入りを果たす。その後も『遠すぎた橋』(77)や『殺しのドレス』(80)など、多種多様な作品に出演し、約70年のキャリアで出演映画はなんと180本以上。 そのキャリアの長さと、常に第一線を走り続けていることを示すように、キャリア初期の主演作のリメイク版に自ら出演することもしばしば。『狙撃者』(71)で兄の復讐に燃える主人公を演じたケインは、29年後に製作されたリメイク版『追撃者』(00)では復讐のターゲットとなる役どころに。また『スルース』(07)では、オリジナルの『探偵スルース』(72)で名優ローレンス・オリヴィエが演じた作家役をケインが演じ、若き日のケインが演じた青年の役をジュード・ロウが演じている。 さらに、マイク・マイヤーズ主演の「オースティン・パワーズ」シリーズは『国際諜報局』から連なる「ハリー・パーマー」シリーズをパロディにした作品であるが、その第3作『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』(02)に、ケインはオースティン・パワーズの父ナイジェル役で出演。また同じく「ハリー・パーマー」シリーズにオマージュを捧げた『キングスマン』(14)でも、諜報機関キングスマンのリーダー、アーサー役として出演している。 ■キャリア30年以上でついにオスカー俳優に! そうしたユーモアに満ちたフィルモグラフィの持ち主であるケインは、これまでアカデミー賞には6度(主演男優賞4回、助演男優賞2回)ノミネートされ、2度(いずれも助演男優賞)受賞している。初めてその栄冠に輝いたのはウディ・アレン監督の『ハンナとその姉妹』(86)。アレン監督の作品からはこれまで6人の俳優が計7つのオスカーを獲得しているが、男優の受賞者は現在までケインただひとりだ。 ニューヨークを舞台にした三姉妹の恋愛模様を描いた同作でケインが演じたのは、ミア・ファロー演じるハンナの夫であるエリオット役。ハンナの妹リー(バーバラ・ハーシー)との不倫関係に悩みながら、ハンナとの関係を修復しようとする複雑な感情の役柄を見事に体現。作品全体にリアリティと感情の奥行きを与えることとなった。 そして2度目の受賞となったのは『ハンナとその姉妹』から13年後。ラッセ・ハルストレム監督の『サイダーハウス・ルール』(99)では孤児院の院長ラーチ医師役を演じ、史上6人目(当時)となる2度目のアカデミー賞助演男優賞を獲得する快挙を成し遂げた。 ジョン・アーヴィングの同名小説を原作に、トビー・マグワイア演じる孤児院生まれの青年ホーマーの成長を描いた同作。ラーチは医師としての倫理と父親のような愛情を持ち合わせ、孤児たちにとって唯一の家族であり、ホーマーにとって人生を導いてくれる重要な存在。ケインは60代も半ばに差し掛かったこのころから、貫禄たっぷりな名バイプレイヤーとして存在感を発揮するようになる。 ■近年の代表作はやっぱりこれ!バットマンを支える忠実な執事 2000年代に入ると、ゲイの美容コンサルタントを演じた『デンジャラス・ビューティー』(01)や、政治的な陰謀に巻き込まれる英国人ジャーナリストを演じて19年ぶりにアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『愛の落日』(02)など、役の振り幅がこれまでにも増して広くなっていく。 そんな折、ケインはキャリア後期をより実のあるものとしてくれる名監督とめぐり逢うことになる。それは先日『オッペンハイマー』(23)で悲願のアカデミー賞監督賞を獲得したクリストファー・ノーラン監督だ。彼が手掛けた「バットマン」映画である「ダークナイト」シリーズで、ケインはブルース・ウェイン/バットマンの忠実な執事アルフレッド・ペニーワース役を演じた。 世界的にメガヒットを記録した同シリーズにおいて、主人公の父親代わりであり、内面の葛藤を理解して支え続けるアルフレッドは、作品のドラマ性を高める感情面での核としての役割を果たしている。特に完結作である『ダークナイト ライジング』(12)で涙を見せるシーンは多くの観客の心に刻まれ、終幕を締めくくる重要な要素になったといえよう。 ちなみにノーラン監督とは「ダークナイト」3部作以外にも、『プレステージ』(06)や『インセプション』(10)、『インターステラー』(14)、カメオ出演を果たした『ダンケルク』(17)、そして『TENET テネット』(20)と、計8作品でタッグを組んでいる。 ■キャリアの集大成となる引退作は、実話を基にした感動作に! そして昨年10月、地元イギリスのラジオ番組に出演し、俳優業からの引退を表明したケイン。そのキャリアの締めくくりを飾る引退作となった『2度目のはなればなれ』は、老人ホームで余生を過ごす老夫婦の感動的な実話を基にした作品。本作でケインは、第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦から70年の記念式典に参加するために老人ホームをひとりで抜けだした89歳の退役軍人バーニーを演じている。 なんの前触れもなくフランスへ旅立ったバーニーに隠された過去と、彼が必ず戻ってくると信じる妻レネとの揺るぎない夫婦愛。笑いと涙、そして心温まる出会いに満ちた物語は、ケインの俳優人生の集大成となるにふさわしい一本だ。2度観たくなることまちがいなしの本作。ぜひとも劇場で、スクリーンを彩り続けた名優の最後にして至高の演技を目に焼き付けてほしい。 文/久保田 和馬