羽生はGPファイナルで完全復活できるのか
車椅子で帰国してから、まだ3週間が経過していない。4分半のフリー演技をスピンとステップを入れて、通しで行ったのは、この日の試合が始めてだという。まさに、ぶっつけ本番。関係者の話では、先週の段階で、仙台で氷上練習も満足にできていなかったという。本人は、練習不足を絶対に言い訳にしないというトップアスリートらしい強い意志をコメントにこめたが、専門家の見立てはどうなのか。元全日本2位で、インストラクターとしての後身の指導と共に、WEBアスリートジャーナルで評論活動をしている中庭健介氏は、まず4回転ジャンプの失敗をこう分析した。 「ショートでも4回転に失敗しましたが、明らかに回転が遅く、緩かったんです。羽生選手のジャンプの特徴は、効率よく鋭い軸で美しく回るもの。それが、ちょっと緩く、回転が“太く”見えました。太くとは、回転が遅く、円周が大きくなったので、そう見えたんです。それをフリーでどう修正してくるのかに注目していましたが、早い回転を意識する余り、力みましたね。“エイ!”という力みがあったので、ジャンプに入る前の構えや踏み切りに余裕がありませんでした。特にトゥ(スケートシューズのつま先に部分にある出っ張り)を突く瞬間に力んでいました。理由は、練習不足からくる肉体と精神の両面の不安でしょう。フリーの後半にはスケートが滑らず止まっていました。踏ん張る力が弱くなると、エッジが氷をとらえきれずに腰が浮き、滑らなくなります。終盤は、そういう状態になってスピード感もなくなっていました。明らかにスタミナ切れでした。中国杯で怪我をしてから、ほとんど滑り込みの練習ができていなかったのでしょうね。仕方がありません。練習の虫と周囲から言われるほど、練習をする選手ですから、なおさらです。結果は出ませんでしたが、大きな怪我があったのに競技に出てきたのには、驚きました。五輪王者のプレッシャーを乗り越えて、強いメンタルの成長を見せてくれました」 中庭氏は、6分間練習でまったく余裕がなかったことも気になったという。これまでの羽生は、6分間練習は、ちょっとした確認だけで、ほとんどの場合は、時間を余すが、この日は、ギリギリまで時間を使って4回転ジャンプをテストしていた。そこでは着氷に成功していたが、そのいつもと違う姿に羽生が抱える不安が浮き彫りになっていた。