桃農家と二刀流、ラッパーがライブで活用 虎の鳥よけ風船が結んだ縁
福島市飯坂町で半世紀続く桃農家の3代目の安斎忠幸さん(46)は、地元・飯坂温泉への思いを歌詞に乗せたヒップホップバンドのラッパー「ターキン」としても人気を集める「二刀流」だ。ライブでは農家らしさを前面に出し、畑で鳥よけとして使われている虎の風船を観客とともに投げ合って盛り上がるのが定番だ。その虎が、関西の会社との不思議な縁を結んでくれた。【錦織祐一】 安斎さんは農林水産省農業者大学校を卒業後、「安斎果樹園」を継いだ。当時からヒップホップを好んで聴いており、地元にミュージックバーが開店したのを機に2008年に「DEFROCK(デフロック)」を名乗って本格的に音楽活動を始めた。デフロックは耕運機の左右のタイヤを固定して滑りにくくする機能。「響きがいいし農家のラッパーらしい」と名付けた。 飯坂温泉観光協会で地域おこしにも尽力しており、現在は副会長を務める。13年からは飯坂温泉ミュージックフェスティバル「おと酔いウォーク」を開催し、親交のある竹原ピストルさんらが出演して県内外から愛好家が訪れる定番イベントに育てた。 DEFROCKは19年から、本業は果樹苗木栽培会社に勤めるDJ、主婦兼ドラム講師兼占い師の「三刀流」のドラマーとの3人編成で活動する。 日本史をコンセプトにしたバンド「レキシ」が、大化の改新をテーマにした歌で、滅ぼされた蘇我入鹿(いるか)にかけてイルカの風船を持ち寄って盛り上がっているのを知り、「僕らもやりたい」と果樹園で鳥よけに使っていた虎の風船に着目した。20年に「トラトラトラ」を発表すると、狙い通り盛り上がった。 <揺れるタイガーに期待大だ/ありがたいなかかし代打> 最初は果樹園で使っていた1匹だけだったが、ライブを盛り上げるため農協などから少しずつ買い足した。ファンからも「欲しい」と要望があり、「メーカーから直接仕入れた方が安いのでは」と調べたところ、兵庫県三木市の工具メーカー「高芝ギムネ製作所」の「龍宝丸鳥獣撃退タイガー」という商品だと分かった。問い合わせると、高芝伊知郎社長(49)が「ユーチューブ拝見しました。ぜひ使ってください」と10匹もプレゼントしてくれた。そこから親交が始まった。 21年12月には飯坂温泉観光協会の研修旅行で岡山を訪れたのに合わせて同社を訪問し「薬剤を使わずに風船を使って鳥獣を追い払うことで、自然に優しい農業を実現する」という企業理念を聞いた。高芝さんは自らホームセンターなどに実演販売に出向いており「その際のBGMを作ってほしい」と依頼された。社風を歌詞に生かし、朝礼で録音してもらった社員の掛け声を音源に活用した「龍宝丸」のオフィシャルソングを9月3日にユーチューブで公開した。 <ハチの巣ガード巣作り阻止/ドラッグNO守るこの星> 高芝社長によると、虎の風船は「カラスなどの鳥を撃退するのにベストな動物を試し続けた」結果の産物で、他にもヘビやタカなどさまざまな風船を商品化している。DEFROCKがPRしてくれたことで虎の風船の売り上げは3割ほど増えたといい、「実際に農家さんが使ってくれて教えてくれる効果や感想を開発の参考にしているので、とてもありがたい」と感謝する。 安斎さんは「ラップの歌詞はその人の人生を表している。これからも農家らしいラップで地元のことを表現していきたい」と意気込む。